今日も暇だ。我輩は城の窓から外を眺めた。

 青い空に白い雲。日差しはキツくなりつつある。建物の影を探す季節が、もうそこまで来ているかもしれない。辺りの大地は、ありがたいことに平和を表している。黄金色に輝く麦の穂が、まるで大地のカーペットのようで、そよ風に揺れると輝く。収穫の時期。
 (そろそろ、収穫ニャ)

 双眼鏡で外を確認した。
 (な、あれは女神様)
 我輩の領地で、それは起きていた。
 勝利を司る女神、ニケ様とヴィクトリア様がもめている。いつもの日常。端から見れば、とてもくだらない。どっちの方が上だとか、勝ちだとかどうでもいい。
 (喧嘩なら他所でやれニャ)
 怒ったヴィクトリア様が、神器グアトリガで大地を駆け抜ければ、折角、ここまで育った麦が台無し。
 (そうだ)
 一計を思いついた。
 (一石二鳥ニャ)

 我輩は二人の女神に伝言を伝えることにした。

 「そんなに勝負(バトル)がしたいなら、麦の収穫で争うニャ」

 遣いの者に書簡を託した。使者の名前はガット。ヤツならば、女性を怒らせることなく、計画通り進めるだろう。なんせ、恋愛師範猫だからニャ。案の定、女神様からの返事はOKだった。日時は明日の日没までと決めた。
 (上手くいった。我ながらグッジョブ)
 争いを仲裁しながら、収穫する。ここまでは作戦通り。

 ニケ様は、幼いながらも強大な力を持ち、その右拳は黄金の軌跡を描いて、輝く勝利を掴み取る。
 もう一方のヴィクトリア様は、高飛車でプライドが高い。神器グアトリガに乗って戦場を駆け、味方に勝利をもたらす。ただし、ノってくると周囲が見えなくなるため、敵・味方関係なくぶっ飛ばすことも・・・。
 (何で?)
 よくニケ様といがみ合っているが、互いに相手がいないと、どことなく寂しそうにしているなど、仲がいいのか悪いのか、よく分からない。

 我輩は知っている。ニケ様が遠出するときには、こっそりとヴィクトリア様は後をつけている。
 (双眼鏡で確認済みニャ)
 ニケ様は人を信じすぎる。純粋な女神ニャ。悪人がいることを知らない。だから、心配なんだろう。それならいつも仲良くすればいいのに・・・。
 (いがみ合う必要はないニャ)

 次の日は朝から、あわただしく動いた。女神様達にルールを説明。「スタート」の合図で勝負は始まった。麦の刈り取り作戦開始。
 (沢山、収穫してくださいニャ)

 ヴィクトリア様はグアトリガの機動力を活かして、次々と収穫していく。この日のために改造されている荷台に、次々と刈り取った麦を積み込んだ。
 (反則だニャ。ニケ様に勝ち目がない)
 これに対して、ニケ様はよく実った畑を選んで収穫していく。ヴィクトリア様の行動は想定内ということだろう。焦ってはいなかった。
 (収穫量は大丈夫かニャ?)
 我輩は勝負の行方を見守るだけ。どちらが勝っても負けても収穫さえ、出来ればいいニャ。
 (大助かりニャ)

 やがて、日没。収穫は終了した。作戦はバレることなく完遂された。
 「お疲れ様でしたニャ」
 女神様達を労った。城で食事会を開いた。
 (これくらいしないとバチが当たるニャ)
 「乾杯ニャ」
 「乾杯」
 「乾杯」
 互いに笑顔だった。やはり、女神様は笑顔が似合う。後日、計量する話をしたニャ。

 収穫した穂を乾燥後、粉にして計量。結果は・・・。
 引き分けだった。
 (ホッ)
 その後、ヴィクトリア様に詰め寄られたが、我輩はしっかり計量した。数字はウソをつかない。
 「今回も勝負は、つかなかったわね。お疲れ様、ニケさん」
 疲れたのかヴィクトリア様は、大人しく帰って行った。
 ニケ様も数字を見て、安心して帰って行った。

 「王様、計算通りでしたな。まさか、女神様をアゴで使うとは・・・」
 「人聞きの悪いことを言うな、フーパス。王様に対して失礼だぞ」
 「まー、よい。ガット、大目に見てやるニャ」
 「エヘヘ、失礼しました。王様」
 「それよりもヤツは見つかったのか?」
 「あかん。ワイも必死に探しとるんやけどな、見つからんのや。もうちょっと時間が必要やな」
 「では、引き続き頼んだニャ」
 フーパスは一礼をすると、肉の塊をたくさん持って帰って行った。

 フーパスが帰ったのを確認し、ガットが話し出した。
 「でも、王様。あのような者に託してもよろしいのでしょうか?」
 「仕方がない。アイツがいれば、フーパスに頼まなくてもいいんだニャ」
 王様とガットは再び、異世界の勇者と出会うことを望んだ。
 (大将軍よ。お前は今、どこにいるんだニャ)


― 完 ―