「あっ、楪くん偶然だね…おはよ!」

 そんなこんなで、やっぱり何だか彼の事が気になってしまっていた私の視界に、今日も楪くんに話しかける女の子が現れた。

 好きな人の為に一途に努力してる女の子ってほんとに可愛い。

 楪くんがおはよう、といつもの王子様スマイルを浮かべると、彼女の頬はあっという間に赤く染まっていく。

「うわぁ、あの子抜け駆けじゃん、酷くない?」

 少し不満そうな表情を浮かべた香菜ちゃんが、仲良さそうに話す二人の後ろ姿を見つめる。

 好きなんだろうなぁ…なんて、ぼんやりと考える。

「まぁまぁ、いいじゃん、香菜ちゃんも話しかけたら?」

「んー、遠目に見てる方が楽しくない?」

 あぁ、そういうものなのかな?

 片思いすらまだの私は、そういう気持ちすら分かんないもんだから、言っている事が全く理解出来ない。

 恋っていいなぁ…

 それは、私がずっと思っていた事だった。

 恋をしたら、学校に来るのだって楽しみで仕方無いんだろうなぁ…って。

「っはぁ…」

 そう考えると、自分は何て女の子らしくないんだろう。

「そんなにため息ついてたら幸せ逃げていくよ」

 香菜ちゃんが私を見ながらそう苦笑する。

「幸せはとっくに無いです〜」

 そう言ったら、何故か視界の端にいた春馬くんがチラリとこちらを振り返った。

 いや…まぁ正確には、こちらの方向を振り返っただけで、決して私の方向を振り返ったわけではないと思う。

 そんなこんなで、私たちは靴箱でそれぞれの目的地へと歩き出した。