けど、下を向いて唇を噛んで必死に耐えている表情を見た時、いてもたってもいられなくなった。

『森山さん。私、あんたに声かけてるんだけど。』

 こういう時優しい言い方ができない自分に嫌気がさす。美鈴は、そんな私のことをゆっくり見る。

『私、上野かほ。自己紹介遅れたけど、これからよろしくね。』

 美鈴は泣いた。

 私はそんな美鈴の手を引き、保健室に連れていった。保健室に入ると美鈴は立てなくなるくらい号泣した。ずっと、耐えてきたんだろう。

『たかが公立中学にさ、そんな思いしてまで行く価値ってある?森山さん成績はいいんだし、中学休んでも高校くらいいくらでも選べるよ。いま、無理する必要なんてないよ。』

『上野さんは?つらくないの?』

『平気だよ。私、学校の連中なんかどうでもいいの。それ以上にしんどいことが私にはあるから。』

 所詮、一生付き合ってくわけでもない連中に何されようが嫌われようがどうでもよかった。私にとって、傷となるのはそうちゃんのことだけだ。

 けれど、人の痛みの価値観なんて人それぞれで、私は平気でも目の前の子にとっては苦しいものだったりする。

 だから、「あなたも私みたいに割り切ればいいよ」なんて押し付けるつもりはなかった。行きたくなかったら行かなければいい。

 けれど、美鈴は制服の袖で涙を拭うと、震える足で立ち上がり私を見た。

『教室戻る。』

『なんで…』