道探しを手伝うと言ってくれたエセのおかげで自覚できた答え。
「なれるさ。お前は、プロに。」
エセがこっちをみる。
そして、顔をくしゃっとさせて笑った。
「もう、迷うなよ。」
エセは笑っている。ちゃんと、笑っている。だけど、その瞳に浮かぶ雫が、エセの心の傷を彷彿させた。
戸惑う。だって、その涙は、喜びの涙ではないと容易に理解できたから。
「エセ…。」
エセは下を向いて黙り込む。
なんて声をかければいい。何も知らない私が発する言葉のどれか一つでもエセのデッドラインに触れてしまったら?そう考えると言葉が出ない。
そうだ。
あの日、倒れ込んだ私にエセがしてくれたように。
私も。
そっと抱きしめる。エセは一瞬肩をビクッとさせるも、拒む様子はない。
抱きしめてわかる。エセの体温が少し冷たくて、体が震えていること。ずっと、抱えていたんだ。私に手を差し伸べている間も、ずっと、エセはエセの問題を抱えていた。
今の私には何も伝えることはできないけれど、せめて、エセの体温が上がって、体の震えも止まるまでは、このままでいようと思った。
『ごめん』
あれからしばらくして、エセはそう言い残し音楽室を去った。
学祭も無事に終了し、1日だけど振替休日になった。