そういえば、この歌を歌い終わった時、入り口にエセが立ってたんだっけ。そう思い、歌いながらなんとなく入口を見てみる。
思わず手が止まった。
「よっ。」
だって、居るんだもん。あの日と同じようにエセはそこにいた。
「のぞき?」
「お前なんかのぞいて何になんだよ。」
「じゃあ、なんで居るのさ。」
「泣いてるかと思って。」
エセは私の正面で座る。そして、目線でギターを貸せと伝えてくる。私は無言でエセにギターを渡すとエセはギターを鳴らす。
相変わらずエセの奏でる音色は心地がいい。
「ねえ、エセ。」
「んー?」
「私、シンガーソングライターになるよ。プロの。音楽しか残されてないとか、そういう理由付けはもうしない。なりたいと心から思うから、誰になんと言われても、私はなろうと思う。」
エセは視線こそギターに向けたままだが、ギターを鳴らす手は止めている。
ちゃんと話を聞いてくれている。
「私、音楽が好き。」
この言葉を本当は一番に聞いて欲しい人がいる。でも、その人はこの世にいなくて、ただ、勝手な理想や願望かもしれないけど、伝わっているような気がするんだ。
だからこれは、手を差し伸べてくれたエセに対しての私の答え。