次の日ー。
 Yちゃんの家で、女子会をしていた。
 話題は、もちろん、S2店。
 初回の時の事や、昨日、それぞれが、担当とした、limeのこと等、色々と話し合って、盛り上がっていると、Yちゃんが、カミングアウトしてきた。
 「実は…、うち、昨日もS2店に行った…。」
「え?!
Yちゃん、昨日も行ったの?!!」
 あたしとMちゃんは、声を揃えて、驚いた。
 「Yが、1人で行くなんて、余程、楽しかったんだと思うよ?」
 あたしは、Kちゃんの言葉に、一抹の不安を抱いた。
 「(Yちゃん、ハマらないよね…?)」
 そんなあたしの心配をよそに、Yちゃんが話しかけてきた。
 「えり。」
「何?」
「M君が、不安がってたよ?」
「何で??」
 きょとん…。となる、あたし。
 「「俺、指名変えられるかも…。」って。」
「はああああああああ?!!
友達の事って言ったのにっ?!!」
「でも、昨日、「変えられるの嫌だ!!」って…。」
「人の話を聞いてないのか?!!」
「さぁ…。」
「バカM!!」
「まぁまぁ…。」
「そう言えば、指名は、どうしたの?」
「A君のままにした。」
「そうなんだ。
(大丈夫かな…?)」
「うん。
A君とlimeしてたら、おもしろくて…。」
「そっか。
(ちょっと不安…。)」
「実は、今日も行こうと思って…。」
「今日も?!!
(かなり、不安…。)」
 Yちゃん以外の3人は、驚いた。
 「だって、楽しいんだもん。」
「(やっぱり、かなり、不安…。)」
「楽しいのはいいけど、ハマらなように!!」
「大丈夫、大丈夫。」
 Kちゃんの警告にも、軽い返事のYちゃん…。
 「(ハマりそうで、怖い…。)
(1人で、行かせない方がいいかなぁ…。)
(ついて行こうか…。)
Yちゃん、あたしも行く!」
「なんで?」
「(ついて行ったら、ダメなの?)
(益々、不安…。)
身分証、見せようと思って…。」
「あっ、なるほど…。
いいよ。
一緒に行こう。」
 あたしは、YちゃんとS2店に行った。
 S2店に入ると、ボーイさんが来た。
 「指名は、誰にする?」
「指名…。」
 悩み、固まる、あたし…。
 いつもなら、送り指名した人か、友達を指名してきた。
 だから、迷う事なかった。
 そんなあたしが、悩み、固まり、更に、店内を見渡し、初回につかなかった人の確認までした。
 「(どうしちゃったんだろ…。)」
 自分の行動に、訳が分からなかった。
 悩んでいるあたしに、ボーイさんが聞いてきた。
 「送りは、誰だった?」
「M…、だけど…。」
「じゃあ、M君でいいじゃん。
M君、呼んでくるよ?」
 渋るあたしの代わりに、Aが答えた。
 「Mでいいよ。
M呼んできて。」
「(なんか…、納得いかない…。)
(絶対、この行動に、意味があるはず…。)
(なんだろう…。)
(早く、原因を見つけなきゃ…。)」
 そんなあたしのところに、Mが来た。
 「ビビったぁー…。
指名変えられるかと思った…。」
「実は、フリーで入ろうかと悩んで…。」
「変える気ないって、言ってたじゃん!!
止めろよな!
ビビるから!!!
メンタルやられちまう!!!」
 Mと話していると、MIが来た。
 「いらっしゃいませ。
MIって言います。」
「あっ、新規つかなかった人!!
なんで、つかなかったの?」
「新規つかないようにしてるんだ。
新人に、譲らなとな。」
「なるほどね…。」
「てか、よく覚えてるよな。
俺が、ついてないとか。
新規の時、あんなにすごかったのに…。
あんあに、新規に群がるn初めて見た。
普段、つかないやつまでついて…。」
「あー、やっぱり、そうだったんだ。
普段、つかなさそうな人、何人かいたから…。」
「分かるの?!!」
「まぁね。
会話も、顔も、名前も、覚えてるし。」
「マジで?!!
すげぇな!!」
 MIも、Mも、驚いていた。
 Mは、あたしのことが、信じられなくて、質問してきた。
 「新規につきそうにない人は?」
「代表、支配人、店長以外で?」
「そう。」
「SI君。
とれる、とれない関係なく、新規が、嫌いだと思う。
あとG君、K君。
とれると思わない限り、つかないと思う。」
「すげぇっ!!」
「合ってるの?」
「うん。」
「そうなんだ。」
「新規でつかなかったの、俺だけ?」
「ううん。
代表、支配人、店長もついてないよ。」
「そうなんだ。
じゃあ、ビール頂戴。」
「何が「じゃあ。」なのか分からないけど、欲しかったら、Y呼んで。」
「Y?」
「あなた達のオーナーよ。」
「分かった。」
 そう言って、MIは、どこかに消えて行き、ヘルプを1人連れて来た。
 「はい!!!
こいつも、Y!!」
「どうも、Yです。」
「ってことで、ビールな。」
「えっっ!!
(ちょっと待って!!)
(何?!!)
(このイケメンっっ!!)
(どこから、出て来た?!!)
(やだ…、ドキドキが止まらない…。)」
 そう。
 この時に、MIが連れて来た人こそ、彼だった。
 だけど、番組のことを、すっかり、忘れてしまってる、あたしは、彼のことに気付けないでいた。
 にっこり、微笑む、彼を見て、あたしの心臓は、爆発寸前!
 でも、悟られたくなくて、平静を装った。
 あたしは、照れ隠しのように、MIに絡んだ

 「この人も、新規ついてないよ?
ってか、Yじゃないじゃん!!」
「ん?
こいつもY!!!」
「Yって名前なの?
(ドキドキするー…。)」
「ううん。
YTて言うよ。」
「YT?!
Yじゃないじゃん!!!
YTじゃん!!」
 あたしは、MIに言った。
 「ん?
YもYTも一緒!!」
「そんな訳ないでしょ!!」
「一緒だって!!
なぁ?
Y!!」
「なんかよく分からないけど、Yです。」
「いや…、Yって…。」
「じゃあ、Yってことで、ビールもらおー!!」
 そう言って、ビールををとりに行く、MI。
 「ホント、Yって、呼んでくれてもいよ?」
「いや…、だって…。
(微笑まないで〜!)
(ドキドキが…。)」
 そこに、MIが、ビール2本とビアグラスを2つ持って来た。
 「はいっ!!
Y、ビール。」
「あっ、ありがとうございます。」
「だから、Yじゃなくて、YT!!」
「YTって、呼んでくれていいよ。
ってか、何ちゃん?」
「(ヤバっ!!)
(名前聞かれただけなのに、倒れそう…。)
あたし?
あたしは、えり。」
「じゃあ、えっちゃんだ!!」
 ビールを飲みながら、MIが一言。
 「俺、名前、知らなかった。」
 「えっ!!?」
 驚いて、固まる、YT。
 それからは、ずっと、YTは、ニコニコ。
 今思えば、会話に困って、笑ってたんだと思う…。
 だけど、当時は、そんなことすら、思えないほど、一目惚れしていた。
 「YT…。
(あっ、呼んじゃった…。)」
「ん〜?
何ぃ〜?」
 ニコニコのYT。
 「(好きって言いたい…。)
(一目惚れしたって言いたい…。)
(でも、ダメ…。)」
 そして、ひねり出した答えは…。
 「YTの顔、ドストライク!!」
 YTは、「また、顔…。」って、表情(かお)をしていた。
 その表情(かお)を見て、胸が苦しくなった。
 「(そんな表情(かお)させるつもりじゃなかった…。)
(ごめんなさい…。)」
 傷付いたのを悟られないためか、笑ってる、YTの表情(かお)を見て、余計に、胸が苦しくなった。
 あたしは、それを振り払うように、YTに話しかけた。
 「何で、新規の時、ついてくれなかったの?
ついてくれたら、即、指名したのに…。
もし、名刺をもらってても、指名したし、他の誰かが、指名しそうになっていても、譲らなかったのに…。」
 どんなことがあっても、指名したかった。
 友達をなくすことになっても…。
 「ごめん…。
つこうと思ったら、もう、時間きてて…。
俺だって…、つきたかった…。」
 YTの言葉を聞いて気付いた。
 新規の時と今日の行動について。
 「(YTのためだったんだと…。)」
 あたしは、落ち込んだ…。
 「(なんで、フリーにしなかったの、あたし…!!)」
 後悔しかなかった。
 「あたし、YT指名がいい…。」
 つい、本音が出てしまった…。
 「おぉっっ!!
Hやったなぁ!!」
「H?
Hって誰?」
「俺、俺。
俺の源氏名が、H。」
 YTは、自分を指差して答えた。
 「そうなの?!!
(じゃあ、YTは、本名?!!)
(本名、先に知っちゃった…。)
(こんなの初めて…。)」
「そうなの。」
 「ふふ…っ。」っと笑う、YT…。
 「すいませーんっっ!!!
指名間違えましたーっ!!
変えてくださーいっ!!」
 あたしは、叫んだ。
 それを聞いた、M。
 それまで、AとYちゃんと楽しそうに、話していたのに、いきなり、こっちを向いた。
 「ダメだからな!!」
「なんでよ?!!」
「永久指名だからな!!
えりの担当は、俺!!」
「意地悪!!」
「意地悪じゃねぇ!!
この店のシステム!!!
ルール!!
決まり事!!!」
「そんなの、破るためにあるのよ!!!」
「違う!!
守るため!!
お前、ヤンキーか?!!!」
「ヤンキーじゃないしっ!!」
 Mとあたしのやり取りを爆笑しながら見ていた、MIとYT。
 「H。
ここまで、言ってもらえると嬉しくねぇか?」
「そうですね。
嬉しいです。
ってか、えっちゃん、マジで変えられそうな勢い…。」
「H君、笑いすぎ!!」
 そこに、ボーイさんが来て、MIとMに耳打ちした。
 「このタイミングで、俺、移動?!!
H君は?!!!
H君、ここ?!!!」
 静かに、うなずく、ボーイさん。
 「H君、残す?!!!」
 また、静かに、うなずく、ボーイさん。
 「ちょ…、ねぇよ!!!
おいっ!!
えり!!
俺が、帰ってくるまで、いろよ?!!
H君とイチャつくなよ?!!」
「うるさいなぁ!!
早く行ったら?!!」
「本当に、いろよ?!!」
「分かった、分かった。
早く行きなさいよっ!!
(YT君と話せないでしょ?!!)」
 怒(おこ)りながら、ヘルプに行った。
 「ねぇ、何で、Hにしたの?」
「本名が、Hって読める漢字だから。」
「そうなんだ。」
「でも、変えたいんだよね…。」
「なんで?」
「女の子みたいな、名前だから。」
「でも、あたしは、好きよ。
Hって響き。」
「ホント?」
「うん。」
 YTと話している間、ずっと、ドキドキしていた。
 「このまま、時間(とき)が、止まればいいのに…。)
(ずっと、ずっと、一緒にいたい…。)
(離れたくない…。)」
 そんな思いも虚しく、ボーイさんに、YTが呼ばれてしまった…。
 「(イヤだ!!)
(行かないで!!)」
 どんなに隠そうとしても、隠しきれない、感情…。
 あたしの表情(かお)を見た、YTは、ハニカミながら、優しい声で、耳打ちしてくれた。
 「また戻ってくるから、待ってて。」
「えっ…。」
「待っててね?」
「(そんなことされたら、期待しちゃう…。)
(期待しちゃダメなのに…。)」
 ホストあるあるの台詞にも関わらず、嬉しくて、待っていた。
これが、あたしとYTの出会い…。