黒い桜の花は、散ることしか知らない(上)

 あたしが、スイートに入れられてから、あたしは、S2店に行ってなかった。
 Mに対しては、敬語でしか話さなくなった。
 それは、一線どころか、何線も距離を置いていたから。
 あたしは、Mの事が許せなかった。
 許せなかった理由は、2つ…。
 1つ目は、スイートに入れた事。
 もう1つは、Aに便乗して、楽して、売り上げを、手にした事。
 売り上げって、苦労して取るものでしょ?
 簡単に取るものじゃない。
 しかも、他力本願で!!
 その事で、Yちゃんとケンカになった。
 「Mに売り上げが、入るのがムカつく!!
あたしの分も、Aに入れば良いのに…。」
「えり。
いい加減にしようか?
Mを選んだのは、自分でしょ?
嫌な気持ちも分かるけど、何も悪い事してないじゃん?」
 あたしは、ハテナが飛んだ。
 「(何もしてない…?)
(スイートに入れられたのに?!!)
(しかも、他力本願…。)
(怒らないと、思わない方が、どうかと思う。)」
「M君のことを、勝手に嫌いになったのは、自分でしょ?
うちは、めっちゃ、反省したよ?
今でも、後悔してる。」
「(えっ…。)
(反省…?)
(あれのどこに、反省するところが…?)
(新規だけで、スイートなんて、許さない!)
(反省したって…。)
(色カノだもんね。)
(あたしは、ただの客!)
(客が、自分の金をどこでどう使おうが、客の勝手でしょ?)
(制限できるものじゃないでしょ。)」
「でも、あーゆー事がなかったら、A君の気持ちも分からなかった。
今回、高くついたけど、いい経験したと思ってる。
より一層、A君を好きになれた。」
「(流石!!)
(色カノの鏡っ!!)
(ドツボにハマってるね…。)」
「えりは、反省してないの?」
「(反省…?)
(何で?)
(だって、あたしは、客だから!!)
(あたしのお金を何に使おうが、勝手でしょ?)
(それなのに、スイートに入れられたんだよ?!!)
(YTが来なかったら、どうなってたか…。)
(YTに売り上げあげたいわっっl!!)
(助けてくれたんだから!!)」
「えり。
今のえりを見てたら、カケだけ払ったらいいように思えるよ?」
「そうよ。
あたしは、ただの客。
だから、カケを払い終わったら、おしまい。
Mも、カケを払ってくれたらいいだけ。
なぜって、あたしは、Mをホストとしか見てないし、Mは、あたしを客としか見てないから。」
「それでもいいじゃん。
ただの客でもいいじゃん。」
「ただの客なら、お金の使い方は、客次第。
つまり、他店に行っても怒られない。
と言うか、怒れない。
縛る理由がないから。
Mが、「俺だけを見ろ!」「他店に行くな!」なんて言えないの。
他店だって、営業する権利があるから。
ただ、本カノ、色カノ、エースは、別よ?
お金をたくさん使ってくれるから。
でも、あたしは、そこまで使わない。
Mの本カノ、色カノでもない。
だから、他店に使ったことを、怒る権利はない。
それなのに、スイートに入れたことは、大きな間違い。
ただの客だと、分かってるからこそ、YTが「新規で、スイート?!!」、「酷い!」って言ったの。
「それで、敬語なの?」
「そうよ。
ホスト以下になった人は、知り合いになる。
知り合いなら、敬語でしょ。
相手のこと、ロクに知らないんだから。」
「でも、担当じゃん…。」
「担当として認識してないの。
Mに対しての態度は、変える気ないから。
Mとは、終わり。」
「でも、M君は、敬語使われるの嫌がってるのよ?」
「それは、Mの態度次第で変わるけど、今のままなら、態度を変える気はない。
ホストクラブは、S2店だけじゃないんだから。」
「えり…。
反省してないのね。」
「何度も言ってるでしょ?
Mの立場で、あたしをスイート入れるのは、間違えてるって言ってるの!!
スイートに入れた時点で、終わりなの!
終わらせたのは、M。
あたしじゃない。
反省するのは、他力本願で、売り上げを取った、M。
そのMが、変わるべきなの。」
 これだけ言っても、Yちゃんには通じず、疲れ果てながら、電話を終わらせた。