黒い桜の花は、散ることしか知らない(上)

 Aの聖誕祭ー。
 この日、あたしとMちゃんは、Yちゃんの職場にお邪魔していた。
 話題は。S2店のYTの思い人。
 「SEちゃんの思い人、多分、えりだよ。」
 Yちゃんの答えに、驚くあたし。
 「嘘っっ!!
(YTが、思ってくれるわけないじゃん!)」
「だって、SEちゃん、えりの声しか、聞こえてないもん。
話すのも、えりとだけだし。」
「そうなの?!」
 Mちゃんは、ビックリ!
 「たっ…確かに、YTとは、よく話すけど…。
ヘルプとしてだと思ってたし…。
声だって、たまたまかと…。
(本当に、思われてるのかな…。)
(もしそうなら、めっちゃ、嬉しい!)」
 しばらく、3人で語り合っていると、Mちゃんが、「S2店に行こう。」と言い出した。
 「え〜…。
聖誕祭行くの?
別に、行かなくてもいいじゃん…。」
 あたしは、嫌がった。
 でも、Mちゃんは、乗り気…。
 「いいじゃん。
行こうよ!!
シャンパンタワー見たい!!」
「でも、イベントの日って、ラストまで帰してもらえないし…。」
「えっ!!
そうなの?!!
でも、帰ればいいじゃん。」
「チェックしてもらえないのに?
帰れないでしょ。」
「大丈夫だって。」
「(その自信は、どこから…?)」
 2人の会話に、行きたい顔のYちゃん。
 「行くんなら、タワーのムービー撮ってきてっっ!!」
「うん。
いいよ。
えりちゃん、行こうよ。」
「え〜…。
(行くの決定…?)
(やだなぁ…。)」
 結局、行く事になった…。
 行くと、既に、多くのお客さんで、席が埋まっていて、その中で、YちゃんとTV電話したり、Mちゃんとコンビニ行ったりして、自由にしていた。
 そんな中、一度だけ、あたし1人で、コンビニに行った。
 コンビニに行くと、夜職していた時の指名に会った。
 実は、あたしは、こいつが大嫌い。
 だから、会ったこと事態最悪なのに、コンビニの中で、ディープキスされて、胸を揉まれた。
 あたしは、慌てて、コンビニを出た。
 「(ホント、最悪!!)
(汚いっっ!!)
(汚れたっっ!!)
(二度と会いたくなかった!!!)」
 イライラしながら、ブチギレ状態で、S2店に帰ると、ヘルプにYTが来ていた。
 「えっちゃん?!!
どうしたの?!!
なにがあったの?!!」
 ブチギレ状態で、おしぼりを使い、何度も口を拭きまくる、あたしに、驚きのYT。
 「会いたくない人に会った!!
元指名!!
汚いっっ!!
汚れたっっ!!」
「うーん…。
俺は、そこまで、嫌いな、指名がいないから分からないけど…。
よっっぽど、イヤだったんだね…。
でも、えっちゃんは、汚れてないよ。
汚くないよ。
大丈夫。」
 そう言って、優しく手を握ってくれた。
 「そいつとどこで会ったの?」
「コンビニ…。」
「コンビニ?
1人で行ったの?」
「うん…。」
「これからは、1人で行ったら、ダメだよ?
誰かと行くこと!!
俺らでもいいし。
分かった?」
「分かったぁ〜…。」
「よし!」
 YTは、優しく手を撫でてくれた。
 「YT〜…。」
「ん〜?」
「やっぱり、YTと、お出かけしたい…。」
「だから、それは…爆弾だから…。」
「分かってるけど…。」
「俺だって、出かけたいよ…。
でも、爆弾だから…。
我慢しないと…。」
「もし…もしだよ…?」
「うん。」
「もし、Mをガムテープで、グルグル巻きにして、トランクに押し込んで、無理矢理連れて行ったら、爆弾じゃなくなる…?
例え、隣に、YTがいるとしても…。」
「それなら、大丈夫!」
「じゃあ、そうしよ?
みんなに、「爆弾。」って言われても、ぐるぐる巻きのM見せればいいんでしょ?」
「そうだな。
あっ、うるさいと邪魔だから、口にもガムテープしないと!!
そしたら、えっちゃんと、ゆっくり、話せるっっ!!」
「えぅっ!!」
 そんなこと言ってもらえると思ってなかった。
 そうこうしていると、シャンパンタワーの時間になった。
 中央に設置された、シャンパンタワーの周りに、ホスト達が集まった。
 あたしとMちゃんは、ムービーの準備をした。
 シャンパンタワーは、すごく綺麗で、コールも長く、最後に、ホスト達が、1人一言ずつ言って終わった。
 Mちゃんは、帰る準備を始め、SI を呼んでもらっていた。
 SI は、来るなり、不機嫌だった。
 それに気づかず、Mちゃんは、「帰る。」と言った。
 「はぁ?」
「シャンパンタワー終わったから、帰る。」
「は?」
「だから、チェックして!!」
「は?
忙しいから無理。
そんなんで呼ぶなっ!!」
「いや…。
帰らせてよ。」
「(やっぱり、無理だよね…。)」
「だから、無理って言ってんじゃん!!
分からないの?!!
脳外科行けよ!!」
 そう言い放ち、何処かに行った。
 機嫌を損ねた、Mちゃんは、つくヘルプに悪態をつきまくり…。
 そんな中、再び、YTがついてくれた。
 「YT!!」
「ただいま〜。」
「おかえり〜。」
 その時、Mの大きな声が聞こえ、YTと2人で、そっちの方を見た。
 すると、焼酎をロックで飲んでいた。
 「(あーあ、あんな飲み方して…。)」
「あーあ、あんあ飲み方して…。
M潰れたな…。」
「(まあ、Mが潰れても、YTがいてくれたらいいし…。)」
 案の定、ベロベロに酔っ払った、M…。
 とても、あたしを送りに出られる状態じゃなかった。
 「M、大丈夫か?」
 YTの優しい声がけにも、答えることが出来ない、M…。
 「(あれ…。)
(これって…YTに送ってもらうチャンス?!!)」
 不謹慎だけど、そう思うと、ドキドキが、止まらなかった。
 「(神様〜!!)
(ありがとうございますっ!!)」
 善は急げと言わんばかりに、YTにお願いした。
 「YTが、送り出ししてくれない…?
M、こんなんじゃ、無理だし…。
(ダメで元々!)」
「いいよ〜。
チェックもしてあげる。」
「ありがとう。」
「じゃあ、伝票持ってくるね。」
「うん。
(やったーーー!!)
(YTに送ってもらえるっっ!!)」
 計算された、伝票を持って来ようとした時、SI が、話しかけてきた。
 「えり、俺が、こいつ(Mちゃん)送り出すときに、一緒に送り出すから。」
「えっ…。
ヤダ…。
(せっかく、送ってもらえるのに…。)
(神様ぁー!)」
 そこに、YTが帰ってきた。
 「SI 。
えっちゃんは、俺が送るから。」
 そう言うと、あたしに、伝票を渡してくれた。
 「はい。
えっちゃん。
今日は、これだけ。」
「ありがとう。
じゃ、これで。」
「ん。
じゃあ、持って行ってくるね。」
「うん。」
 YTが、お金と伝票を持って行くと、SI が話しかけてきた。
 「SE君に送ってもらうのか?」
「うん。約束したから。
M、こんな状態だし…。」
「もう、SE君が担当みたいだな。」
「うん。
(ホント、そうなればいいのに…。)」
 そこに、お釣りを持った、YTが来た。
 「えっちゃん。
お待たせ。
はい。お釣り。」
 温かくて、大きな、YTの手から渡される、お釣り…。
 それだけで、ドキドキ…。
 「ありがとう。」
「じゃあ、行こうか?」
「うん。」
 あたしのバッグを、YTが持ってくれた時、Mちゃんに止められた。
 「いや…。
こっち、まだだから!!」
「もう、えり、SE君と2人きりになりたいからって、気が早えよ!!」
「うるさい!
(SIのバカ!!)」
 Mちゃんのチェックも終わり、再び、YTが、あたしのバッグを持ってくれた。
 「(これからは、ずーっと、YTに送ってもらいたい!!)
(無理なの、分かってるけど…。)」
 あっという間に、出入り口に着いた。
 「(はぁ…、もう、出入り口か…。)
(甘いひと時も終わり…。)
(もう少し、一緒に居たかったなぁ…。)」
 あたしは、落ち込んだ。
 そんな、あたしに、微笑む、YT。
 「えっちゃん、車どこ?」
「えっ?」
「駐車場まで。
ね?」
「(これは、夢…?)」
 あたしの顔は、明るくなり、うなずいた。
 MちゃんとSIのあとを、あたしとYTは、ゆっくり歩いた。
 「(腕組んだら、怒る…?)」
 そう思いながらも、腕を組んでみた。
 「(絶対、怒られる…。)
(爆弾だって…。)」
 心臓をバクバクさせながら、YTを見た。
 YTは、にっこり微笑んでるだけ…。
 どこのホストが見てるか分からない外。
 S2店連中がウロウロしている外。
 会社員がめっちゃ通る外。
 それなのに、YTは、ずっと、ニコニコしてるだけだった。
 あたしは、YTの顔を見上げた。
 「ん?
えっちゃん、どうしたの?」
「ううん…。
(あたし、YTと腕組んで、歩いてる.。)」
 それだけで、宙に浮かびそうだった。
 その時、SIが、振り向いた。
 振り向くなんて思ってなかったから、あたしは驚いたが、YTは動じなかった。
 「あっ!!!
お前ら、腕組んで、歩いてる…!!
流石に、それは、ダメだぞ!!」
 そう言われて、離れようとしたあたしに、YTが小声で耳打ちしてきた。
 「大丈夫。
離れないで。」
 そして、SIに言い放った。
 「羨ましかったら、SIもすれば?
俺らは、Love Loveなんだよ。」
「する訳ねえだろ!!
俺らは、そんなんじゃねぇんだよ!!」
 そう言って、SIは、また、前を向いて歩き始めた。
 あたしは、悪ノリして、YTの腕を、更に、ギュッとした。
 「こんなイケメンと、腕組んで歩けて、幸せ!!」
「ホント?
俺も嬉しいよ。」
 あたしは、ニコニコで、歩いていたが、あることを思い出した。
 「私、SE君の本名聞いた。」と言った、Mちゃんのセリフ。
 「(あたしが聞いたら、教えてくれる…)」
 あたしの胸は、ギュッとなり、顔は曇った…。
 「えっちゃん?
どうかしたの?」
 心配そうに、あたしの顔を、覗き込む、YT。
 「えっちゃん、俺には、なんでも話して。
そんな悲しそうな顔しないで。」
「分かった…。
あのね…、YTの本名が聞きたいの。」
「本名?
何言ってるの?
えっちゃん、知ってるじゃん。
だから、YTなんでしょ?」
「違うの。
あたしが聞きたいのは、名字の方。」
「名字?
そんなので、悲しい顔してたの?
えっちゃんになら、なんだって教えてあげるよ。」
「えっ…。」
 そして、優しく微笑みながら、本名を教えてくれた。
 「漢字も知りたい?」
「漢字はいい…。」
「知りたくなったら、言って。
答えるから。」
「うん。」
「他に聞きたいことは?」
「うーん…。」
「なんでもいいよ。
なんでも答えてあげる。」
「じ…じゃあ、YTって、一人っ子?」
「ううん。
4人兄弟。
ちなみに、俺、末っ子。」
「末っ子?!!
(見えない…。)」
「うん。
末っ子みたいでしょ?
上に、お兄ちゃんが2人、お姉ちゃんが1人。
1番うえのお兄ちゃんとは、結構、離れてるんだよ?」
「(そりゃあ、4人もいればね…。)」
「1番上のお兄ちゃんとは、結構、離れてるんだよね…。
俺、今年19歳。
お兄ちゃん、32歳。」
「32?!!!」
「うん。
だから、一緒に遊ぶことなんてなかったよ。」
「そ…、それだけ離れてたらね…。
(32って…、あたしと同い年じゃん!!)
(実年齢知られたら、終わりかな…。)
(お兄さんと同い年って…。)
(恋愛対象外だよね…。)」
 この時、YTは、あたしの実年齢を知らなかった…。
 あたしは、また、胸が苦しくなった。
 「結構、遠くに止めたの?」
「えっ…?」
「車。」
「あっ、車…。
あと、ちょっと…。」
「そこ、安い?」
「うーん…。
夜中の2時からなら…。
それまでは、高いよ。」
「上限ある?」
「ううん。
ない。」
「じゃあ、今の方が、安いか…。
上限あるし…。」
「上限あるなら、そっちの方が安いよ。
あっ、駐車場、ここ…。」
「ここ?」
 YTは、値段の書かれた、看板を見ていた。
 「確かに、2時から安い!!」
「でしょ?」
「うん。」
 YTと話していたら、Mちゃんの車の運転席に、乗っている、SIに話しかけられた。
 「2人とも、乗れよ。S2店まで、これで行くから。」
 そう言われて、後部座席に、YTと2人乗り込んだ。
 SIの運転は、人を引きそうになったり、スピード出しすぎたりと、めっちゃ、怖かった。
 そして、あっという間に、S2店に着いた。
 車から降りかけながら、SIがあたしに言った。
 「このまま帰ったら、えりとSE君、爆弾になるから、M呼んでくる。」
「分かった。」
 SIが、Mを呼びに行っている時に、Mちゃんが声をかけてきた。
 「えりちゃん、帰るよ?」
「待って、このまま帰ったら、爆弾になるって…。」
「そうなの?」」
 Mが来ても、手を繋いだり、Love LoveのYTとあたし。
 「そうやって、イチャついてろよ。
爆弾として、SE君から、50万もらうだけだ!!」
 キレる、MにあたしとYTは、謝った。
 Mはベロベロのまま店に戻り、あたしはMちゃんと帰った。