黒い桜の花は、散ることしか知らない(上)

4人でS2店に行く日ー。
 あたし達は、Mちゃんの家で、準備を始めた。
 あたしは、メイクするだけだったので、準備は、早く出来た。
 YちゃんとKちゃんは、着ぐるみに着替え、簡単にメイクを済ませた。
 Mちゃんは、カラコン入れて、メイクして、服を着替えた。
 服は、この日に用意したのか、新品で、タグが付いていた。
 それに気付いたのは、Yちゃん。
 「Mちゃん、タグ付いてる…。」
「嘘っ!!」
 Mちゃんは、慌てて、タグを取った。
 Mちゃんのメイクは、カラコンが黒だったので、目が、リトルグレイのようになっていた。
 あたしは、「(このメンバーで行くのか…?)」と思った。
 S2店に行くと、Kちゃんと、Mちゃんは、フリーで入った。
 席につくと、あたしは、黙って、足を組み、腕を組んだ。
 そこに、青ざめた顔のMが来た。
 Mは、ヘルプ席で、土下座…。
 「すいませんでした!!!」
 その姿に、Kちゃんも、Mちゃんも、びっくり…。
 Mは、そのまま、ヘルプ席で、正座をした。
 あたしは、静かに、Mに質問した。
 「あなたの仕事は、何ですか?」
「ホストです…。」
「ほすとは、今日、お客さんに来てもらうのに、何をしなければ、いけないんですか?」
「連絡です…。」
「スマホなしに、どうやって、連絡取るんですか?」
「取れません…。」
「あなたは、連絡しなくても、お客を呼べるんですか?」
「いいえ…。」
「じゃあ、どうやって、お客を呼ぶんですか?
他力本願なんですか?!!」
「いいえ…。
違います…。」
 Mの様子を見て、Aは大爆笑。
 あたしの説教は、まだ、続く。
 「前借りは?
こう言う時の為に、前借りがあるんじゃないですか?」
「前借りは…。
今…、出来なくて…。」
「それは、代表と支配人に、相談しての結果ですか?」
「いいえ…。」
「相談してから言いなさいっっ!!!」
 あたしは、声を荒げた。
 「すみません…。」
「どうすれば、許してもらえるか、分かりますね?」
「はい…。」
「じゃあ、行きなさいっっ!!!」
「はいっ!!
本当に、すみませんでしたっっ!!!」
 Mは、もう一度、土下座をして、ヘルプに行った。
 S2店のみんなは、そんな、Mの姿を見て、笑っていた。
 Mが去った後、S2店のみんなが、挨拶にきた。
 「いらっしゃい。
今回Mは、何したの?」
 笑いながら、聞いてきた。
 「携帯、止まってる事に怒った。」
「えっ!!
携帯止まってんの?!!」
「そう!!!」
「電源切った事で、怒られたばっかりなのに?!!」
「そう!!」
「あいつは、バカか?!!」
「ホント、手のかかる!!」
 S2店のみんなとの会話を聞いて、Kちゃんが、話しかけてきた。
 「えり…、いつも、あんな感じなの?」
「まぁ、大体…。
ほとんどが、あんな感じ。
毎回、ロクなことしないんだもん!!」
「そうなんだ…。」
 Kちゃんと話していたら、Yちゃんが、話しかけてきた。
 「A君が、「VIP行こう。」って…。」
「えーー…。
なんで?」
 あたしとMちゃんの嫌そうな声を聞いて、Aが説明しに来た。
 でも、Aの説明は、回りくどく、どうにかして、VIPに入れようと、必死なのが伝わってきた。
 A君の説明で、3通りの値段の考えが出た。
 KちゃんとYちゃんは、+4000円で、フリータイム、VIPに入れると思っていた。
 Mちゃんは、1時間毎4人で+1000円で入れると思っていた。
 あたしは、1時間毎に+4000円で、1人+1000円で、入れると思っていて、正解は、あたしの考えだった。
 Kちゃんの分を折半しても、予算に余裕があったので、渋々、了承した。
 VIPに入ると、Kちゃん、あたし、Mちゃん、Yちゃんの順で座り、あたしがセンターになった。
 更に、あたしの目の前に、セットが置かれてたので、自然とあたしが、全員分の飲み物を作っていた。
 「(これ…、あたしがキャストみたいじゃない…?
(出来るからいいけど…。)」
 あたしは、会話をしながら、グラスを拭いたり、飲み物を作った。
 あたしが、仕事(?)をしていると、レッドブルを持った。G君が来た。
 「あっ、G君、それ、レッドブルじゃんっっ!!」
 一度、レッドブルを飲んでみたかった、あたしは、興味津々。
 「うん。
一口飲んでみる?」
「うん!
飲んでみたい!」
「OK!!
じゃあ、ビールグラス持って来る。」
 ビールグラスを持って来てもらい、レッドブルを1杯もらった。
 「美味しい!!!」
 一口飲んだ、あたしは、レッドブルを気に入った。
 「気に入った?
もう1本、持ってこようか?」
「うん!!
お願い。」
 G君と話していたら、K君が来た。
 「セット、こっちに置こうか?
俺らがやるし。」
「えー…。
あたしがやるー。」
「ダーメ!!
取り上げ!!」
 K君に、セットを取り上げられた。
 テキパキと飲み物を作ったり、グラスを拭くK君の姿は、綺麗だった。
 「K君って、立ち振る舞い、綺麗だね。」
「そう?
ありがとう。でも、語尾に「ね。」がつくから、「気持ち悪いっ!」って人もいるよ?」
「そうなの?」
「うん。
まぁ、「それがいい。」と言ってくれる人と、「気にならない。」って人もいるけどね。
そう言う、人に指名もらうのが多いかな。
標準語が、面白いってひとには、すぐに、飽きられちゃうんだよね。」
「あたしは、好きよ。
綺麗だもん。」
「ありがとう。」
 そこに、JO君と、SI君が来た。
 そして、KちゃんとMちゃんに、話しかけた。
 「フリーで、入ったんだっよな?
指名下さい!!
お願いします!!」
 そう言って、MちゃんとKちゃんに、手を差し出した。
 JO君とSI君が、何度も手を差し出しているところに、YTが挨拶しに来た。
 「いらっしゃいませ〜。」
「YT!!」
「えっちゃん、後でね〜。」
「え…………。」
 固まる、あたし。
 爽やかに、立ち去る、YT…。
 Kちゃんが、あたしに、話しかけてきた。
 「今の人が、えりの?」
「うん。
あの人。
めっちゃ、優しいの!!」
「もうちょっと、見たかったな.。」
「だよね…。
(YT、言ったこと忘れてる…?)
(指名もらえるのに…。)」
 Mちゃんも、「あれじゃあ、分からない…。)と…。
 「(だよね…。)
(一瞬過ぎたよね…。)」
 少し、みんなと話して、あたしとKちゃんは、トイレに行く事にした。
 すると、トイレの前で、YTを確保!!
 「YT、なんで、ついてくれないの?
前に話した後輩、連れて来てるのに…。」
「俺だって、行きたいよ!!
でも、VIP行ったら、結構な、人数いるんだもん!!
これで、俺まで、VIPに行ったら、フロアが困る。」
「そんなぁ…。」
「でも、隙見ていくから、待っていて。」
「分かったぁ…。」
「そんな落ち込むなよ。
行くから。」
 YTと話してたら、Kちゃんが、出て来た。
 「えり、この人?」
「そう。
この人。
この人が、YT。」
「Hです。
えっちゃんには、YTって呼ばれてます。」
「そうなんだ。」
「えっちゃん、あとで、行くから、待ってて。
泣いちゃ、ダメだよ?」
「分かったぁ…。」
「もう、泣きそうじゃん。
泣かないの。」
「うん…。」
「絶対、行くから。」
「分かったぁ…。」
 トイレから帰ると、A君が、「座りにくい。」と言い、KちゃんとYちゃんに席の交換をさせた。
 席につくと、Mちゃんが、話しかけてきた。
 「M君、来ないね?
いつも、こんな感じなの?」
「うーん…。
「来ない。」と言うか、「来れない。」が、正しいかな。
いつもは、こんな事ないよ?
ちゃんと来るし。
でも…、今日は…、ねぇ…。」
 あたしが、そこまで言うと、A君が、教えてあげていた。
 「今日は、えりを怒らせたから、飲み席を回って、許しをもらうとしてんの。」
「そう。
怒らせておいて、罰がないなんて、甘いことはさせません。」
 そんな中、Kちゃんが、A君に言った。
 「この中で、1番ホストにハマったら、怖いの誰?」
「Mちゃん。
担当によるだろうけど…。」
「(Mちゃん…?)
(全員でしょ。)」
 A君は、次に、ダンボールで、「Mの墓」と書いて、あたしの隣に置いた。
 「これで、Mが、隣にいるでしょ?」
 あたしは、「(はあああああああああああ?!!)」ブチ切れかけた。
 「(あんたは、なにしてんの?)
(ずーーーーっっと、ここに居て、楽して、偉そうに言うな!!)
(性格悪過ぎ!!)
(最低っ!!!)」
 あたしは、A君を軽蔑(けいべつ)した。
 そこに、ベロベロに酔った、Mが来た。
 Mは、あたしを見つけるなり、フラフラになりながら、一目散にあたしを目指して来た。
 その時、Mは、Mちゃんの足を踏んだ。
 あたしのところに、倒れ込むように、座った、Mは、あたしにもたれかかってきて、手を握りしめた。
 「飲んだ…。
めっちゃ、飲んだ…。」
「見ればわかるよ。」
 あたしは、Mに、握られてない方の手で、優しく、Mの頭を撫でた。
 「許してくれる?」
「いいよ。
許してあげる。」
 Mは、ニコニコしながら、休憩し始めた時、ダンボールに気付いた。
 「これ、なに?」
「A君が、作った。」
「頑張ったんだから、もう、これ要らないだろ?」
「うん。」
 Mは、ダンボールをくしゃくしゃにして、捨てた。
 Mの酔いが、だいぶ覚めたころ、あたし達は、VIPを出た。
 VIPを出た、あたし達は、ちょっと、広めのBox席にに通された。
 そこでも、Mは、あたしの手を握っていた。
 SIは、諦めず、Mちゃんに、手を差し伸べ続けた。
 「どうか、指名を下さい!!」
「そう言われても…。」
 Mちゃんは、あたしを見た。
 「えりちゃん、どうしたらいい?」
 あたしは、考えた。
 「Mちゃんの好きにしたらいいよ。。
この時間じゃ、つかないから…。」
「どうしよう…。」
「好きにしていいよ。」
「じゃあ…。」
 Mちゃんは、SIくんを場内指名した。
 今度は、Mが、言いにくそうに、話しかけてきた。
 「あのさ…。」
「何?」
 Mは、一段と強く、あたしの手を握った。
 「怒…る…よな…?」
「え?
何に怒るの?」
「これから、俺が、言うこと…。
怒るよな…?」
「そんなの、聞いてみないと、分からないでしょ?」
「怒らないでよ…?
実は…、俺…、俺…、かけ飛ばれた…!!」
「はああああああああああ?!」
 あたしは、握っていた手を離した。
 「やっぱり、怒ったぁ!!」
「当たり前でしょ?!!
何考えてるの?!
客の計算しなさい!!
計算しないから,飛ばれるのよっ!!
この仕事、精神的に、しんどいよね?
体調悪くて、休めないし、お酒飲まないといけないし、楽な客ばかりじゃないでしょ?!!
その分の給料があるから、がんばれるんじゃないの?!!!
こんなキツい仕事してて、カケ飛ばれることと。罰金払うことほど、バカらしいことないのよ?!!」
「オーナーと、まったく同じ事言うなよ!!」
「カケ飛ばれたのは誰?!!」
「俺だけど!!
まったく、同じ事言うんだもんっ!!
余計、つらくなる…。」
 半泣きのM。
 「回収は?
出来そうなの?」
「無理…。
相手大阪…。」
「はぁ?!!
ったく!!」
「すいません…。」
「客の計算の仕方は、分かる?」
「あんまり…・」
 しょぼんとする、Mに計算の仕方を教えた。
 Mとあたしが、そんな話をしている中、SIとMちゃんは、イチャつていた。
 そんなSIが、話しかけてきた。
 「M、さっき、許してもらったばっかりじゃねぇの?」
「許してもらったけど、カケ飛ばれた話子したら、怒られた。」
「カケ?!
飛ばれたのかよ。
ってか、そんな話しまでしてんの?」
「何でも、話してる。
な?」
「うん。
何でも話してくれるよ。」
「そうなんだ!!」
 SIは、驚いていた。
 「えり、N店のmenu、何でも奢るから、許して。」
「あたしだけ?
Mちゃん達のは?」
「じゃあ、その分も…。」
「分かった。
ちゃんと、奢ってよ?」
「うん。
ちゃんと、奢ってよ?」
「うん。
ちゃんと、奢る。」
「じゃあ、私、親子丼!!」
「(なんで、あんたが、決めてんの?)」
 あたしは、ムッとなった。
 そうこうしていると、チェックの時間がきた。
 ここで、VIPの値段の間違いが発覚!!
 あたしは、正直、「VIPに入ったにしては、安い!」と思った。
 払う時になって、AとYちゃんが、言い合いになってた。
 Aが席を離れた時、あたしとMちゃんに、Yちゃんが、ボトル代の割り勘を言ってきたので、快く支払った。
 それでも、揉めてる、AとYちゃん。
 聞けば、「お金が足りない!」と…。
 あたしは、「Kちゃんの分を、全部、払ったと思えばいいか。」と思い、足りない分の金を渡そうとすると、Yちゃんに断られた。
 だから、あたしは、財布にしまった。
 まさか、この時のやり取りが、のちに、嘘と誤解を交えて、大きな話になると、思ってなかった。