黒い桜の花は、散ることしか知らない(上)

数日後ー。
 Yちゃんが、S2店に行くと言うので、一緒に行くことにした。
 いつものように、Mと話してたら、YTが、来て、挨拶してくれた。
 「えっちゃん、おはよう。」
「おはよう、YT。
YT、ついてくれるの?」
「いいよ。
M、ヘルプ行って。」
「分かった。」
 素直に、ヘルプに行く、M。
 そして、ヘルプ席を、あたしの近くに置き、座る、YT。
 「えっちゃん、今日、何してたの?」
「仕事して、子どもとお風呂入って、女子会。」
「へぇー…。
結構、ハード…。
って、子どもいるの?!!」
「いるよ〜。
もう、小学生。」
「そんな大きな子が?!!」
「うん。」
「えー…。
見えない…。」
「そう?」
「うん。」
「(年相応だと思うんだけど…。)
(ホストあるあるかな…?)」
「若いお母さん。」
 YTは、ニコッと笑った。
 「ありがとう。
(マニュアル通り…?)
(そうだとしても、YTと話してる!!)
(また、ドキドキが…。)
(どうしよう…。)
(しかも、YT近い…。)」
「えっちゃんって、仕事何してる人?
保育園の先生?
服屋さん?」
「(待て、待て、待て…。)
(職業聞く?!!!)
(タブーでしょ!!)」
 じーっと見て、あたしの返事を待つ、YT。
 「(いや…、あの…、そんなに、見つめられても…。)
ほ…、保険会社…。」
「保険屋さんかぁ…!!」
「うん…。」
「それは、浮かばなかったぁ!!」
「そう?」
「うん。
仕事どう?
大変??」
「すっごく大変!!
保険に入ってもらえなかったら、お給料ないし…。」
「そうなんだ?!!」
「うん…。」
「ねぇ、俺が入ったら、えっちゃん、嬉しい…??」
「え…。」
 思わぬ答えだった。
 「それは、お給料になるし…。」
「俺、入ろうかなぁ…。」
「えっっ!!!
ホントに?!!」
「うん。
えっちゃんが、喜ぶなら。」
「すっごい嬉しいっ!!
(フルネーム聞ける。)
(住所聞ける。)
(連絡先聞ける。)」
 あたしは、一気に、テンションが上がった。
 「えっちゃん、すっごい嬉しそう。」
「だって、嬉しいもん!!
(仕事に託(かこつ)けて、全部、聞けるんだもん!!!)
ねぇ、月にどれくらい払える?」
「うーん…。
1万くらいかな…?」
「ホントに?!!」
「うん。」
「あっ、YTの本名のフルネームと住所書いてもらわないと…。」
「いいよ。
どれに書くの?」
「用紙持ってきてないから、今度お願い。」
「分かった。」
「あと…、あたしの後輩で、入ってもらっていい?」
「それは、構わないよ。
えっちゃんがいいなら。」
「うん。
あたしは、それでもいい。
(あたし、辞めちゃうし…。)」
「じゃあ、いいよ。」
「ちゃんと、その子連れて来て、YT指名してもらうから。」
「分かった。」
 この時のあたしは、目先のことしか、考えてなかった…。
 本当に、Mちゃんが、YTを指名していたら、あたしは、身を引いていた。
 「H君、ありがとう。」
 そう言って、かえってきたのは、M…。
 YTの時間が、終了した事が、告げられた瞬間…。
 「あっ…、うん…。
えっちゃん、ごちそうさま。
また来るね?」
「うん。」
 「また帰ってくる。」と言って、立ち去る、YT。
 例え、ホストあるあるだったとしても、マニュアルだったとしても、その言葉を信じて、待つ、あたし。
 そんな2人の様子を目の当たりにして、イライラのM。
 「「また、帰ってくる。」って…。
お前の指名じゃねぇよ。」
「M、YTの方が、先輩じゃないの?」
「そうだけど?」
「じゃあ、そんな事言っちゃダメでしょ?
YTは、Mがいない間、楽しませてくれたのよ?」
「それが、仕事だからな。」
「Mーーー!!」
「大体、お前は、H君さえ居たらいいんだろ?!!
「H君、H君。」ばっかり言いやがって!!
お前は、俺のだ!!!」
 Mは、あたしの手を握りしめた。
 まるで、あたしは、自分の物のように…。
 この日のMは、イライラしっ放しだった。
 移動を伝えにきた、ボーイさんに対しても、イライラ…。
 「なんで、俺が行かなきゃいけないわけ?
俺、この席に、帰ってきたばっかりなんだけど!!!
俺、行かない!!!」
 イライラしながら、お茶を飲む、M…。
 困り果てる、ボーイさん…。
 見かねた、あたしが、助け舟を出した。
 「M、少しだけ、ヘルプに行ってきて?
ね?」
「それで、H君とイチャつくんだろ?!!」
「YTが来るとは、限らないでしょ?
さっき来たばっかりなんだから。」
「あいつ、暇だもん!!
お前が呼んだら、すぐ、来るよ!
絶対、イヤだ!!!」
「分かった。
YT以外の人に来てもらう!!
それなら、いいでしょ?!!」
「H君が来たら、戻ってきてやる!!」
「分かったから、行きなさい!!」
 これだけ言って、やーーっと、ヘルプに行った、M。
 「(何を考えてるんだか…。)
(あたしが、YTの事好きなの知ってるくせに…。)」
 あたしは、店内を見渡した。
 「(Mのお客さんは…。)
(あたしの両隣、正面か…。)
(正面の子は、エースっぽいね。)
(帰ってきたら、褒めてあげよう。)」
 その瞬間、A君に話しかけられた。
 「えり、明日、なんの日か分かる?」
「明日…?」
「オーナーの誕生日。」
「えっ…。」
 あたしの頭は、フル回転された。
 「(ちょっと待って…。)
(明日、Yの誕生日…。)
(Mのこの集客率…。)
((どう考えても、ヤバいっっ!!)」
 そこに、Mが帰って、あたしの手を握ってきた。
 あたしは、恐る恐る、Mに聞いた。
 「M…?
あそこにいるのは、エース…?」
 あたしは、正面の子のことを聞いた。
 「うん。
そうだよ。
呼んでないのに、来てくれた。」
 嬉しそうな、M。
 「あの…。
M…?
明日の予定、ちゃんと、あるよね…?」
「明日?
明日は、まだ、予定ないよ?」
 あっけらかんと答える、M。
 「明日のこと、忘れたの?」
「明日が、どうしたんだよ?」
「明日…。
オーナーの誕生日…。」
 ハッとなる、M。
 そして、あたしに、すがってきた。
 「えり。
明日も来てくれ!!」
「無理っ!!
シャンパン、卸せないもん!!」
「やべぇっ!!
どうしよう…!!」
「どうするのよ!!
あたしの両隣と、正面の子、Mの指名だよね?
それに、正面の子、エースでしょ?!!」
「なんで、分かるんだよ?!!」
「あたしをなめるなっっ!!!」
「…はい…。」
「はぁ…。
どううるの?
呼べる持ち客は?!!」
「いない…。」
「はぁーーー…。
ダメ元で、エースに頼みなさいっっ!!」
「…はい…。」
「ホント、手のかかる…!!!」