黒い桜の花は、散ることしか知らない(上)

次の日ー。
 風邪が治りきらないのに、出勤しているであろう、Mの為に、S2店に行った。
 「(店内寒いかもしれないから…。)
(一応、ひざ掛け持って行こうか…。)
(少しでも、温かい方が、いいよね。)」
 そう思い、少し大きめの、ひざ掛けを持参した。
 S2店に入り、席につくと、Mが来た。
 Mは、来るなり、ヘルプ席で、土下座…。
 周りにいた、S2店のみんなが、驚いた。
 「すいませんでした!!
これからは、電源気にします!!
あと…、風邪治りませんでした!!
でも!!
ちゃんと、出勤したので、オリシャンは、勘弁してください!!」
「(やっぱり、無理して、出てきてる…。)
分かった。
今回は、許してあげる。」
「やったぁーっっ!!!」
 S2店の人達は、益々、驚いた。
 それをよそに、ニコニコで、あたしの隣に座る、M。
 あたしは、持参した、ひざ掛けを渡した。
 「はい。
これ、ひざ掛け。
寒いかと思って…。
普通のより、ちょっと、大きんだけど…。」
「え…。
マジで?!!
ありがとう!!」
 これが、あたし流の、アメとムチ。
 「今日は、無理してでも、出勤するだろうと思って…。」
「えりあ、優しいな。
ありがとう!!!」
 ひざ掛けを広げる、M。
 「なぁ…。
一緒にかけようや。」
「いいよ。」
「ああ…、あったかい…。」
 そう言って、ひざ掛けの中で、あたしの手を握ってきた。
 「(風邪の時は、甘えたいよね…。)
(仕方ない…。)
(今日だけ、許してあげよう。)」
 Mと話していたら、みんなが、挨拶に来た。
 「いらっしゃい。」
「おはよう。」
「M、何があった?
土下座して…。」
「実は…、昨日、電源切れてるの、気付かなくて…。
それで、怒られました。」
「ああー…。
毎日、連絡欲しいタイプ?
Mの事、好きなんだ?」
「いえ…。
そうじゃなくて…。
「他の客と連絡取ってないっ!」って…。」
「えっ?!!
他人?!!
自分じゃなくて?!!」
「はい…。
あと、風邪引いたことにも、怒られました。
「体調管理出来ないのか?!」って。」
「それで、土下座…?」
「はい…。」
「当然でしょ?
休みの日も、「君のために、時間作ったんだよ。」って、アメをあげなきゃいけない人は、お金を使ってくれる人でしょ?
あたしは、そこまで、使わないもの。
そんなあたしに、貴重なプライベートタイム、割くことないでしょ?」
「いやいやいや…。
自分も、Mを助けてるのに?!!
まぁ、そういう考えの人、いいなって思うよ。
Mが、うらやましい…。」
「そうですか?」
 Mは、照れた。
 「おお。
大切にしろよ?
めっっっっったに、こんな人、居ないから。」
「はい。」
「人を天然記念物みたいに言わないで!!」
「いやだって、ホントに居ないからさ。」
「もぉ〜…。
(ただ、楽な客ってだけでしょ?)
(本性、出してないし。)」
 また、Mと2人になった。
 「そう!
相談があった!!」
「なに?」
「最近、limeしても、客が来なくて…。
なんでだと思う?」
「limeしてるのに来ないの?」
「そう!!
ちゃんと、lime返してるのに…。」
「(ん…?)
(「ちゃんと返してる…?)
(ちゃんと…?)
(まさか…。)
ねぇ、もしかして、limeの返信、すぐにしてる…?
1時間に、何回もやり取りしてたり…。」
「うん。
当たり前じゃん!!」
 自信たっぷりに答える、M…。
 「ねぇ…。
やり取りの内容って、他愛無い感じ…?」
「まぁ、ほとんどが…。」
「(やっぱり…。)
そんなに、limeしたら、来なくて、当たり前!!
お店に行かなくても、Mを独り占め出来てるんだもん。」
「「独り占め。」って…。
limeしかしてねぇんだぞ?
会ってねぇんよ?」
「会ってなくても、limeだけで、満足しちゃうの!!
相手からすると、会話してるような気分になって、独り占めしてる感覚になるの!!!」
「えっ!!!
そうなか?!!!
どうしたらいいんだよ!!!」
「適度に、忙しいフリをして、店に来させるの!!!
「店に来たら、ゆっくり、話せるのに…。」とか言って。
相手に「会いたい。」と思わせなきゃ!!」
「うーん…。
例えば…?」
「例えば、limeなら、一言を1時間に1回くらい。
電話なら、1回3分以内で終わらせる。」
「分かった。
やってみる!!!」
「(果たして、ここまで、口出しして、いいのだろうか…。)」
 あたしは、悩んだ。