「このポーチ可愛いじゃん。どこがダサいんだよ」


 そう言った時のピリついたクラスの雰囲気など、日葵には全く関係なかった。
 好きなものにまっすぐで、そしてとても丁寧な作品を作れる彼女が罵られるのか。それが本当に謎だった。

 その後、自分がいじめの標的にされるのは考えてもいなかったが、別にどうでもよかった。好きなものをしている方が楽しい。それで、菊那が心を痛めないならば、その方が安心出来る。そう思った。





 そんな時に、訃報が届いた。
 ずっと入院していた母親が亡くなったのだ。












   ☆☆☆



 「お母さんが亡くなったの………」
 「あぁ。幼い頃から体が弱くて。父は仕事で忙しくて出張が多い仕事だから、母は一人で闘病してたんだ。けど、死んでしまった。菊那が見たのは、母の葬式から帰ってきた親戚だろうね」
 「………そ、そうだったの………。でも、あの時にお母さんが亡くなっていたなんて……」
 「心配してくれてありがとう。確かに悲しかったけど、近い将来、母が居なくなるっていうのはずっと覚悟していた事だったから。そこまで鬱ぎ込む事はなかったんだ」
 「ごめんなさい。その………勝手に勘違いしてしまって………」
 「いいんだ。先生にも転校する事になったとだけ言ってくれって言ってたんだけど………」
 「………私たちが悲しまないように嘘を言ってるって思ってたの」
 「なるほど。そういう事か」



 自分勝手な思い違いで、彼を死んでしまったものだと決めつけていた事に申し訳なさと、情けなさで顔を上げられなかった。