そう、この時間が終わってしまえば、樹とはもう会うことがないのだ。ただ、花泥棒探しをする間だけの関係なのだから。
 きっと、スマホに残された彼の連絡先やメールを眺めながら夜は寂しくなる日が続くのだろう。連絡しようとしても、ボタンを押せない。そんな切ない日々を。

 先ほどまであんなにも心が弾んでいたのに、菊那は胸が締めつけられ苦しくなる。今は目の前で綺麗な笑みを浮かべて紅茶を飲んでいる樹だが、もう次の予定などないのだ。デートに誘うというのも冗談で、このお礼のお茶会だけの事なのだと菊那だってわかっている。
 夢から覚める時間なのだろう。
 菊那はフォークでチーズケーキを小さく切り、口に運びながら目を伏せた。


 「菊那さん。私はあなたの事がとても気になっています」
 「……………ぇ…………」

 
 どうしてこの時に彼の顔を見ていなかったのだろうか。後からそんな後悔が生まれてくるほどに、その言葉は菊那にとって驚きであり衝撃であった。
 自分の事を「気になって」くれているのだ。それは、菊那が樹への思いと同じなのだろうか。そんな微かな期待を持ってしまうぐらいにその言葉は菊那にとって嬉しいものだった。



 「だから菊那さんの事を教えてくれませんか?」
 「私の事………」


 樹はティーカップから手を離し、テーブルの上に両手を組んでゆっくりと置いた。
 そして、スッと菊那を見つめる。


 「紋芽さんの事は無事に解決しました。次はあなたの番です」
 「………ぇ………」


 「菊那さんが私の所に来た理由はなんですか?」