ソファにゴロンと横になり、菊那はスマホのメール画面を見つめながらそうつぶやいた。
 たまたま少年とぶつかり、その少年が持っていた花を樹が取り戻したかった。樹はその花のために菊那と連絡を交換しただけなのだ。そうでなければ、屋敷に入れたり、汚れた顔や髪を拭いてくれたりはしなかったはずだ。
 すべては、あの一輪の茶色い花が導いた短い間の関係。



 「………少し寂しいな…………って……!」


 自然と口がそう動き、吐息と一緒に小さな声がもれた。
 そして、菊那はハッとした。
 今、自分は何と言ったのか。
 寂しいとは、彼と会えなくなるのだろうか?たった1回しか会っていない、時間にして1時間にも満たない時間しか共にしていないのだ。優しくされもしたが、腕を掴まれて協力を強要されたの近い事までされた。
 それなのに、すでに別れる事を寂しいと思ってしまっている。


 出会いが運命的だったから?
 優しくされたから?
 ………かっこいいから?



 「………どっちにしても気になっていい人じゃないよ………」



 菊那はスマホの画面を消して、真っ赤になった顔を両手で覆いながら、大きくため息を吐いたのだった。