「それでは………こちらを菊那さんに渡しておきますね」


 紙に何かを書いた後、菊那にそれを渡した。それは名刺だった。


 「………大学教授………」
 「はい。専門は植物病理学や、樹木学などが専門です」
 「植物病理学……難しそう……」
 「植物の病気の感染から、農作物を守るための対策を考えたり……まぁ植物のお医者さん的なイメージだと思います」
 「植物のお医者さん……。だから、この家も花が沢山あるんですね。樹さんは花がお好きなんですね」
 「………そう、なんですかね………」


 きっと満面の笑みで「はい」と答えてくれると思っていたが、菊那の予想とは違って樹は曖昧な返事をした。
 草木が好きなだけで、花は違ったのだろうか、と菊那は思った。


 「その名刺の裏に私のプライベートの連絡先を書きましたので、連絡をください。花泥棒の少年らしき人が屋敷をうろうろしていたら、すぐに連絡致しますので」
 「え………」


 貰った名刺を裏返すと、確かに電話番号とメールアドレスが書かれていた。


 「連絡、よろしくお願い致します」
 「………はい」


 今まで出会ってきた人の中で1番のイケメンであり好条件な男性である樹と、連絡先を交換した事はかなり嬉しいはずなのに、菊那は素直には喜べなかった。
 名刺を持ったまま固い表情で笑みを浮かべて返事をするしかなかったのだった。