"風船になりたい"
ずっとそう思っていた。

子どもの頃家族で遊園地に訪れたことがある
僕はうっかり風船を手放してしまって、風船は空へと飛び立った。
これが快感に思えたんだ。"囚われた風船を解放してあげた" と 思った。

それから僕は"風船になりたい"と思うようになった。

僕は欲というものがないらしい。
親も兄弟もいない。
みんなこの世から居なくなった。
交通事故だ。仕方ないと思った。
飲酒運転で家族の乗った車に衝突したそうだ。
裁判の時そいつからタバコの匂いがした。微かに甘い匂いで香水と混じっていたのかもしれない。
だから、僕はお酒とタバコが嫌いになった。
今は母方の叔父にお世話になっている。叔父は独身でまだ若いのに何だか申し訳ない。とてもいい人だ。僕がお酒とタバコが苦手だと分かるとすぐにやめてくれた。
でも、それは罪悪感を生んでしまった。

だからできるだけ早く家から出て行かなきゃ

そして僕は高校生になった。金銭の負担も減るだろうと必死に勉強して特待生ではいった。
僕は後ろの角の席になった外の景色がよく見える。
その時目の前に女の子が座った。みんな周りと話しているのにその子だけずっと窓の外を眺めてた。
窓から入る春風が彼女の髪を優しく撫でた。
猫っ毛な彼女の髪はふわふわとなびいている。
彼女は成績は優秀で運動も出来て絵もうまい。というのも美術部だったからだけど。
そして最近知ったことは帰り道が同じってこと。
彼女は気付いているのだろうか?
でなきゃ僕がストーカーみたいになってしまうよ。と思いながら路地についていた。
遠くの空には風船がたくさん飛んでいた。

彼女は気付いていたみたいだ。
そして風船を眺めながら僕に話しかけたんだ。
「風船は一見自由にあちこちに飛び回れそうに見えるけれど、本当は上にしか行かない。上にしか行けないんだよ。そして宇宙まで飛んで行って最後に割れてしまうんだって…ねぇ儚いと思わない?」

彼女は悲しそうに言うから
僕はその事実を初めて知ったと同時に君を理解した気がする。
君は命の重さと儚さを知っていると
そしてどうにも出来ない気持ちを心のどこかに閉じ込めていると。

"解放してあげたい"こんな気持ち初めてだ。
"早く解放してあげて優しく抱きしめてあげたい"と
これは、同情からなのだろうか
でも、僕は彼女を手を掴んだ。掴んで離さなかった。このまま離すと君が何処かへ消えてしまいそうだから。