コンコンッ

瀬川が毛布を持ってきて医局に戻ったあと、少しして再びドアがノックされた。

瀬川、忘れ物でもしたのかな……?

そう不思議に思いつつ、返事をするといつもの瀬川よりだいぶ豪快に扉が開いた。

「あら、すいません。なつみちゃんのお見舞いに来たんですけど…、お取り込み中でしたか?」

そう言って入ってきたのは髪の短い中年の女性。

言い方からするに、なつの施設のスタッフさんだろうか。

「いいえ、私は付き添いですので構いませんよ。むしろ、お邪魔でしたら席を外しましょうか?」

「いえいえ!そこまでされなくて大丈夫ですよ。なつみちゃんがこれから長く入院するって聞いて、少し遅くなっちゃったんですけど、一応施設としてお見舞いに来たんですよ。お菓子持ってきたんで、それだけ置いて、少し様子を見てから帰ろうと思って。」

「…そうですか。」

なんだか、いやいや来たような言い方に違和感を覚えながらも、俺はもう一個の椅子を出して勧めた。

と同時に、もうひとつ違和感を覚える。

なつが静かなんだ。

いくら術後とはいえ、なつは基本的に好きな人には喜んで積極的に話しかけるはずだ。

そっとなつの様子を伺うと、なつはいつもキラキラと輝いている目を曇らせて、少し怯えたような表情をしていた。

それを見た時、頭の中でこの前の幡也を思い出した。

"なつ、"めんどくさい""邪魔"って言われたんだって"

……この人が、なつに心無いことを言った人なのか?

もちろん直接聞ける訳もなく、俺はなつを安心させるためにも俺自身冷静を保つためにもそっとなつの手を握った。

「あら、怪我したの?こんなに包帯巻いて。少し大袈裟ね。まあ、病院だからかしらね。」

そう言って施設の方は無遠慮になつの頭の包帯に手を伸ばした。

「あっ」

俺が静止するのも遅く、傷口を包帯の上から触られ、なつは痛そうに顔を歪める。

「すいません、そこ縫ったばかりなんです。触られると痛いですし、傷も開いちゃいますので。」

少し圧を込めてそう言うと、施設の方は面倒くさそうに大袈裟にため息をつく。

「なら先に言いなさいよ。私だって好意でやっただけなんだからね?あーもー、まったく。少し話でもしようと思ったけど、なつみちゃんもこんな様子だしいいわ。もう用も終わったので帰りますね。」

やっと、帰るのか……

本当に短時間だったが、色々思うことがありすぎてすごく長い時間に感じた。

「じゃあ。なつみちゃんいつもみたいに迷惑かけないのよ。病院なんだから、いい子にしてなさいね。」

そう言って施設の方はまた乱暴に扉を閉めた。