結局、なつの手術は明日に決まった。

急ではあるが、水頭症の進行が早いのでできるだけ早く処置を済ませるべきだということでそうなった。

俺は、その日は元々別の子の手術が入っていて抜けられないため、執刀は瀬川がやることになった。

水頭症の手術自体、1時間程度で終わる難易度も高くない手術のため不安視はしていないが、当日あまりなつに付くことが出来ないのは不安ではあった。

なつは小さい頃から何度も手術を受けてきたし、水頭症の経験もある。

……でも、やっぱり手術が怖いのはいつまで経っても変わらないようで、毎回手術の前には不安気な表情を見せる。

手術前日の夜は、よく魘されていて…

ピリリリリッ

PHSが鳴った、呼び出しだろうか?

「はい、小児科染谷。」

「染谷先生すいません、なつみちゃんが泣いて、染谷先生のことを呼んでいて…」

「……わかった。すぐいく。」

PHSを切ると俺は背もたれにかけてあった白衣を掴んで駆け足でなつの病室へ向かう。

やっぱり、今回も魘されたかな……

夜の暗い廊下を急ぎ足で進んでいくと、なつの泣き声が聞こえてきた。

「なつー、どうしたー?」

「…えっぐ、ひろ、くん……ひろくん…」

「どうした、どうした。怖い夢見たか?」

看護師さんに抱っこされてあやされていたなつを受け取り、いつものように背中をぽんぽんと優しく撫でる。

「うぅ、なつ、こわい……」

「うん、何が怖い?」

「こわい、ぜんぶ、こわい……やあ、なつ、おうちかえる、びょーいん、やだあ」

「急に嫌になっちゃったか、そっか、そっか。ごめんな、嫌だよなこんなとこ、早く帰りたいよな。」

怖い、嫌だと泣くなつを見ていると胸が痛くなる。

心の幼いなつにとって、やっぱり病院はいつまで経っても怖いところなのかもしれない。

痛いことも嫌なことも沢山されて、そりゃ怖いよな、とまた少し切なくなる。

「ひろくん、おそと、いこ?…ヒック、なつ、おそと、いきたい……」

「んー、今は難しいかなあ。もう少し良くなったら、中庭とかお散歩も行こう?だから、もう少し頑張れる?」

「やだあ、なつ、がんばれないっ……なつ、もうかえる、かえらせて」

「ごめんな、まだもう少し良くなるまで、帰れないんだ。まだもうちょい頑張ろ?」

そう言うと、なつはやだやだと首を振ってまた泣き出してしまった。

毎回のことながら、やっぱりこれには少し参るな。

なつの気持ちもよくわかるし、でもなつの体のことを思うと帰してはあげられない。

でも、怖いよな…

無機質な手術室で、大人に沢山囲まれて……

なつは、昼間はあまり手術を怖がる様子は見せない。

…でもきっと、本音は夜の方ですごく怖いのを隠してるのかな……

早く、全部治ればいいのにな……

こんななつも俺たちも辛い治療、早く終わればいいのにな。