時の止まった世界で君は

「なつー、おはよー」

「……ん?…ひろくん?」

病室に入ると、なつは布団の中でうずくまっていた。

見ると少し顔が赤い。

熱でしんどいのかな……

「おはよう。気分はどう?少し顔赤いけど具合悪くない?」

「……ん…おねつ、あるかも……」

自分でも自覚症状はあるみたいだな。

とりあえず熱を計って、体温しだいで瀬川に連絡か。

ピピピピピッ

ピピピピピッ

体温計を見ると38.7の文字。

抗がん剤の副作用だろうな……

そっと頭を撫でぐったりとした様子のなつにしゃがんで目線を合わせてから声をかける。

「お熱しんどそうだから、今瀬川先生呼ぶね。」

コクリと頷いたなつの頭をまた優しく撫でてからズレていた布団をかけ直した。



少しして、部屋のドアがノックされる。

「なつ、おはよう。お熱また上がってきちゃった?」

なつは少し不安げな目で瀬川を見ている。

「5分前に計った時は38.7だったよ。」

「ありがとうございます。……んー、どうしよっか。お熱しんどかったら下げてもいいけど、注射頑張る?」

そう聞いた途端、なつはぶんぶんと首を横に振る。

「やっぱり注射はやだよね…、じゃあまた冷えピタ貼って様子見ようか。」

そう聞いて、少し安心したのか、なつの目線が和らいだ。

「よし、じゃあ冷えピタ持ってくるね。それ貼ったらついでに朝の診察もするからね。」

そう言って瀬川が出ていくと、なつは俺の白衣の裾を引っ張った。

「…どうした?」

「…………だっこ」

なつがものすごく小さな声でそう言うもんだから、少し面白くて笑ってしまう。

なにも、わざわざ小さな声で言う必要などないのに。

「いいよ。おいで。」

そう腕を広げてやると、なつは少しふらふらしたまま抱きついてきた。

いつもより熱い体温が伝わってくる。

聞きたかったこともあったけど、この様子じゃ無理そうだな。

なつの調子のいい時にまた出直すか。

小さな背中を撫でながらそう思った。