「おい、宏樹」

書類を見ていた手を止めふと顔を上げると、この場では見慣れない顔。

「どうした?ああ、昨日はなつの対応あたってくれたんだってな。助かった。」

「礼はいい。それより、なつのことなんだけど。」

「うん。」

幡也の顔はいつにも増して険しい。

これは、モンペモードかな。

「なつの入ってる施設変えろ。」

「……は?」

突拍子もないことすぎて思わず変な声が出る。

「だから、施設変えろつってんの。」

「…なんで?」

そういうと、幡也は悔しそうに唇を噛んだ。

「なつ、"めんどくさい" "邪魔"って言われたんだって。そんなゴミがいる所、なつの帰る場所じゃない。」

ああ、なるほど。

悲しいけど、よくある話だ。

なつはまだいくつか障害や持病があるから、色々と厄介がられることが多いのだ。

「……でも、やっと受け入れてくれた数少ない施設なんだ。これを逃すと、どこも行けないかもしれない。」

「なら俺が探す。なつがそこに居て悲しい思いするなら、いるべきじゃない。」

「わかるよ。それは重々承知だ。でも、前にもそれで転所したじゃないか。また変えたら、今度こそもっと厄介がられる。」

「じゃあなつが辛い思いしてんの見逃していいのかよ。最近の夜泣きもきっとそのせいだ。」

「見逃したいわけじゃない。でも、他の施設に受け入れ拒否されてどこにも行けなくなるリスクを考えると、今は転所すべきじゃない。」

思わず熱が入ってしまって声を荒らげていたことに気付き、周りの目線が痛い。

「……場所、替えよ。ここじゃ、他の先生の迷惑になる。」

「…そうだな。」