時の止まった世界で君は

それから数日後

なつみちゃんの退院が翌日に控えた日。

なつみちゃんは、朝からとてもハイテンションで、染谷先生からプレイルームに行く許可をもらっていた。

その日、染谷先生は午前中から手術が入っていて傍に付けないから、俺が見てるようにと頼まれた。

プレイルームは、ナースステーションの目の前で、俺はナースステーションの中から仕事をしつつなつみちゃんの様子を伺うことにした。

なつみちゃんは、久しぶりのプレイルームに大はしゃぎ。

満面の笑みを浮かべて、にこにこと遊んでいる。

その様子にほっとして、俺も仕事を始めた。





それから、たった数分後だった。

ドンッ

と音が聞こえ、見ると顔を真っ赤にしたなつみちゃんと今にも泣きそうな男の子。

ぶつかったのか、男の子はプレイルームの床に倒れている。

驚いて、急いでナースステーションから出て駆けつけた。

「どうしたの、ぶつかっちゃった?」

できるだけゆっくり落ち着いた声で双方に問いかける。

「……お、お姉ちゃんが突き飛ばしたっ!!」

そう言って男の子はワッと泣き始めてしまう。

男の子のいうお姉ちゃんとは、なつみちゃんのことだろう。

なつみちゃんは、プレイルームの中で遊んでいる子の中では明らかに一番年上だし…

「なつちゃん、突き飛ばしちゃったの?」

そう聞くと、なつみちゃんは真っ赤な顔のままギュッと唇を噛み締めた。

「…なつ、なつ…………違うもんっ!!」

そう叫ぶやいなや、なつみちゃんは全速力で駆け出した。

「なつちゃんっっ!!」

騒ぎを聞き付けて来てくれた看護師さんに、男の子のことをお願いし、なつみちゃんを追いかける。

なつみちゃんは、自分の部屋に入ると思いっきり扉を閉めてしまった。

コンコンッ

「失礼します、なつちゃん急にどうしたかな」

そっと病室に入ると、なつみちゃんは布団の中に潜って丸くなっているようだった。

泣いているのか、時折布団が揺れ、しゃくりあげるような声が聞こえる。

「なつちゃん、どうしたかな。何があったのか、聞きたいんだ。誰も怒ってないから、教えてくれないかな?」

そう言うと、うっすら布団の中から声が聞こえた。

「………………じゃないもん…」

「え?」

「……なつ…………じゃないもん」

「ごめんね、もう1回いいかな…」

「なつ、変じゃないもんっっっ!!!!」

急な大きな声で驚いてしまった。

"変じゃない"とはどういうことだろう…

「男の子に、嫌なこと言われた?」

……コクン

「…それで、押しちゃったのかな?」

……コクン

そっか。

よくあるケンカのようなものか。

「そっか。じゃあ、押しちゃったこと男の子に謝りにいこうか。」

ウウン

なつみちゃんは強く首を横に振る。

「謝らないの?」

コクン

「…なつ、悪くないもん」

「……でも、押しちゃったんだよね」

「…なつ、悪くないもん!!悪いの、あの子だもんっっ!!」

そう言うと、なつみちゃんはまた布団に潜ってしまう。