すんすんと鼻をすすりながら泣くなつを抱っこしたまま病室へ向かう。

なつは、いつもこの検査が苦手だった。

今日のは、数年ぶりということもあってより辛かったんだろう、いつもより泣いていた。

病室は、ナースステーションを出てから少し歩いたところで、でもすぐに着いてしまう。

部屋に入ってなつをベッドに降ろそうとすると、すごい力で拒まれる。

「…やぁ……まだ、抱っこ…」

「……しょうがないなあ。もう少しだけだよ。」

ぐずるなつの背中を優しく摩る。

朝の笑顔を知っているから、今なつがこんなに泣いていることが少し心苦しい。

…この先、またなつが苦しむ姿を見なきゃいけないかと思うと胸が痛む。

……なんで、こんなにこの子は辛い思いをしなきゃいけないんだろうって

泣きそうになる気持ちをグッと抑えて、なつの頭を撫でた。

「…………ひろ、くん…」

「…ん?なあに」

そう聞くと、なつは少し言いづらそうに口籠る。

「……なつ、さ…………」

「うん。」

「…また…………病気、なの?」

その問いかけに、言葉が詰まった。

「……さあ、どうだろうね。まだ、わからないかな。」

どうにか誤魔化したものの、なつはもう既に軽く勘づいているのかもしれなかった。

「……病気だったらさ、なつ…また具合悪くなる?」

なつの言う"具合悪い"とは恐らく、副作用のことを言っているのだろう。

再発だった場合、高い確率で化学療法を行わないといけなくなる。

そうすると、なつはまた少し苦しい思いをするはめになってしまうだろう。

「病気はさ、お薬で治さないといけないからさ。お薬が強いと、また少しだけ苦しいかも…」

「……そっかあ」

か弱いなつの声が痛々しかった。



ごめんな、なつ

また、辛い思いさせちゃって

俺が、もっと腕のいい医者だったら、こんなになつに辛い思いさせなくて済んだのかな…




弱音を吐く心を深呼吸で落ち着かせる。

「…でもさ、今は嫌なことを考えるんじゃなくて、楽しいことを考えよう?検査終わったら、アイス買いに行こうって言ったでしょ?何アイスがいい?」

「……いちご」

「じゃあ、お昼になったら一緒に下まで買いに行こうな。」

俺は、弱い自分の心を隠すのに必死だった。