時の止まった世界で君は

コンコンッ

「はい」

「失礼しまーす」

少し気の抜けた声と共に入ってきたのは

「あれ、幡也じゃん。どうしたの?それに、なつも……」

気だるげな声の主、宏樹の手にはお盆に乗せられた病院食がある。

もうそんな時間か。

「なーつ、お昼持ってきたよ」

そう言って昼食をテーブルに乗せる宏樹を、なつは少しだけ顔を横にして見つめる。

「午前中、頑張ったんだって?瀬川から聞いたよ。そっか、今日は幡也もそばに居てくれたんだ。よかったね」

宏樹も、慣れているからか、なつがこの様子なことを特に詮索もせずいつも通り話しかける。

「よく頑張ったなあ。偉かったね。なつなら出来ると思ってたよ」

宏樹の大きな手に頭を撫でられると、なつは少し照れくさそうに目を瞑る。

涙ももう引いてきたようだ。

「さて、お昼ご飯食べる?体調、どうかな?」

宏樹に目線を合わせられたなつは、少し考えたあと、俺に目線をやる。

「?どうしたの。俺の顔みても、何も書いてないよ?」

その言葉に、なつはフルフルと首を横に振る。

どうやら、違う意図があるようだ。

「……っしょに」

またも消え入りそうな声に、耳をすませば、なんとか断片だけ聞き取ることができた。

もしかして……

「一緒にたべたいの?」

コクリ

力強い頷きが返ってきた。

「はは、じゃあ、今日はみんなでここでお昼ご飯食べる?俺もここで食べようと思ってご飯持ってきてたんだ」

そう言って袋を掲げる宏樹を見て、なつはまたもコクコクと頷く。

「そしたら、1回なつはベッドに戻ろう。幡也にもご飯持ってきてもらわなきゃね」

また力強い頷きを返して俺の膝から降りて行くなつの顔は、少し目元が赤くなっているものの、嬉しそうに表情を緩ませていた。

「ほら、幡也。なつがお待ちかねだよ」

宏樹もニコニコと笑いながらもうひとつ椅子を持ってきて自分の昼食を広げ始める。

「……わかった。ちょっと、まってて。もし、あれだったら、先食べてていいから」

そう席を立って、急かされる気持ちで病室を出た。