君を呼ぶ声

《藍の日常》

仕事と家の往復の代わり映えのない日常に、蓮との“間違い”電話が夜の日課となった

初めて知り合いになった相手と思えない程、話すペースも内容も哲学的な思考、とても波長があい、不思議な感覚を覚えていた

何より、蓮のその柔らかな声が心地よかった


「藍?」


「ん?」


「俺の仕事のこと聞かないね。興味ない?」


「え?あ、興味ないというか芸能にうとくて。それに、大変そうなお仕事だしあんまり聞いたら悪い気もしてた、かな、うん。
別にそういうのなしでも話すの楽しいよ」


「そっか」


「だからネットで知るような情報以上のことはわからないや。ごめんね」


「いやいや、謝ることじゃないし。
ただちょっと、もっと知ってもらいたいなって思っただけ。“もう半分”の俺っていうか」
 

「もう半分……」


「そう。俺を創ってる“もう半分”」


「うん」


「そういや俺も聞いたことなかった。
藍はどんな仕事?」


「図書館司書ってわかる?」


「へぇ!すごいね!!俺、図書館好き。
どこの図書館?今度行くよ!!」


「いや、いいです来ないで!教えない。
芸能人が来るような図書館じゃないし」


「何、その結界(笑)」


「だって」


「電話だけじゃない“もう半分”の藍に俺は会って話してみたい」


「それは……」


「え?いきなり会いたいとか、ダメ?」


「ダメじゃないけど、芸能人と会うとかは、なんか怖いなって」


「怖い?俺のことまだそんな感じなんだ」


「違うよ、そうじゃなくて。蓮のファンとか?追っかけ?とか記者みたいな人とか」


「俺はアイドルじゃないし、俺を応援してくれる人に過激な人はいないと思うけどね」


「ごめん。その辺の境もよくわからないの」


「それに、誰かに何かを表現する仕事っていう意味では、藍の仕事も俺と一緒だと思う」


「そう、かな?」


「うん。同じ表現者だって思うよ。
フィールドが違う、それだけ。
藍とは波長が合って楽だし、心地良いんだ。
こんな感覚、久しぶりでさ。
だからかな、もっと俺のこと知ってもらいたいし、藍のこともっと知りたいって思った。
もう半分の俺、ちゃんと知ってほしい」

藍は蓮の言葉に思わず言葉をのんだ


「蓮は本当に思ったことすぐいうよね。
今、ドキッとしちゃったよ」


「藍だって感情を言葉にしてるじゃん(笑)」


「あ、そうだね、つい(笑)」


うれしいよ、蓮

あなたをもっと知ってみたい


今、湧き出た言葉、素直に出せなかった

蓮に伝えたいって思ってるのに


「もしもし??藍?聞こえてる?」


「あ、聞こえてるよ。うん、わかった」 


「じゃぁ次までの宿題ね。俺の“もう半分”をもっと知って」


「藍からは?」


「そうだなぁ。小さい頃に読んだ本とか好きな本のこと覚えてる?」


「うん。今も大切にとってある。
園長からもらった絵本で一冊ずつ対になっていて、二冊で一つの物語が完成するんだ」


「素敵な本だね。それを読み返してみて。
今の蓮が創造した本の世界を今度私に教えてほしいな」


「わかった。聖の方の本も探してみる」


「蓮はきっと私よりも何倍もその本の世界を楽しめると思うの」


「本を読んで世界を拡げるのは映画も絵本も同じだから、楽しいよもちろん」


「あ、でもごめん。
映画の台詞とか覚えなきゃいけないのに、別の世界を創造してたら、疲れちゃうよね」


「ううん、大丈夫。
俺の中にある宝箱を開けて、その世界にもう一度飛び込んで、自由に遊ぶ感じだから懐かしくて楽しいよきっと」


「蓮の宝箱の世界、私も入ってみたい」


「じゃぁ俺がお伽の世界へ誘います(笑)」


「うん。楽しみにしてる」


「俺も。藍が俺の作品観て、どんなことを感じるのか、素直な感想聞かせて」


「こんなに宿題が楽しみなの初めて(笑)」


「俺も。藍、明日も朝から仕事なのに遅くまでごめんね、じゃぁまたすぐ、おやすみ!」


「うん。またね、おやすみなさい蓮」


二人は電話を切った