君を呼ぶ声

《流星群の夜》

深夜2時

藍はベランダに出て夜空を見上げる
流星群の星たちは瞬いていて明るい


「あの時と同じだね、お父さん」


幼い頃の想い出を重ねる藍

携帯に着信、先程と同じ番号からだった


まただ

またかかってきた

こんな時間に

私はその“せい”って人じゃないのに

電話にでて直接いったほうがいいのかな

一言いってすぐ切ろう

部屋に入り電話に出る藍


「……もしもし」


「あ」


「あ、あの…留守電聞きましたが、私は
“せい”さんではないです。
番号を間違われてると思います。
ですのでもう架けてこないでください、では」


「あ!!待って!!!」


「えっ?」


「あの!少しだけお話させてもらえませんか?」


「は!?するわけないでしょ知らない人と!だいたい、今何時だと」


「すみません!でも今、星見てましたか?」


「えっ?まぁ…そうですけど。でもだからって」


「あ、あの!!」


「あーなるほど!そういう新手のナンパ!?わざと間違えて電話架けてきて、個人情報とか聞き出して、何か悪いこと企んでるとか?あなたそれ、犯罪ですよ!!
私、そんなにバカじゃないんで!」


ガチャ

藍は一方的に電話を切った


「え?はは(笑)すげぇ想像力(笑)おもしろ」


蓮司は笑いながらすぐに架け直す


繋がらなかった番号

ようやく誰かと繋がることができた

相手がどんな人か知りたかった


藍は鳴り続ける携帯を見ている


直後に架けてくるのはどうなのよ……


もう一度電話に出る藍


「ですから!しつこいです!通報しますよ」


「違います!詐欺とかナンパとか全然違います!!」


「……」


「少しだけ!1分でいいんで!僕の話聞いてもらえませんか」


「嫌だっていったら?」


「きっと、あなたは言わない気がするな」


「えっ……?」


「だってこんな時間に電話に出てくれる人だから」


「そ、それは!流星群見るために起きたからで、人違いだってことも言った方がいいのかなって思っただけで……」


そういわれると切りづらいじゃない

心理戦に持ち込もうとしてる?

そっち方面にはめっぽう弱い
朝の占いにも一喜一憂する単純人間だ


「1分だけ、あなたのお話を聞くだけなら。
終わったらすぐ切るのでもよければどうぞ」


「やった!!ありがとう!!」


蓮の声が明るさを帯びたことを感じる藍


「えっと、俺の名前は佳村蓮ていいます。
世の中的には、五十嵐蓮です」


フルネーム!?
珍しい名前、カムラレン?
どんな漢字書くんだろ?

え?日本人?

え?待って、世の中的って何?(笑)
偽名?源氏名的な?ますます怪しい

思わず質問しそうになる藍
相手の策にハマってはならぬと自制した


「それでその“聖”っていうのは双子の妹で」


「えっ!?……」

藍は驚きの反応する

藍にとっては、思ってもみない答えだった

どう考えても、あの留守電の声は愛する相手への求愛にしか聞こえなかったからだ


「この番号、昔、聖が使ってて。
離れてからもう何年も架かることなくて、でも今日繋がることができた。
それでつい嬉しくて、繋がった人と話してみたいって思ってそれで……」


「……はい」


「だから、その詐欺とかナンパとかそういうんじゃないです!!全然違います!」


「はい、経緯はわかりました。
でもだからって、私は聖さん本人ではないわけですし、これ以上知らないかたとお話しするのも怖いので失礼します」


「待って!証拠!!」


とっさに突拍子もないことを聞いてしまった

これじゃますます俺のこと怪しむのに


「はい?」


「あなたが聖じゃないなら証拠を!名前!名前を教えてください!」


いってることむちゃくちゃだ、俺

蓮は自分に可笑しく笑む


「言うわけないでしょ!?知らない人に!」


「えっと……じゃぁ」


遮るように藍はいった


「だいたい妹さんの声や話し方と違うでしょう?そんなこともわからないんですか?」


蓮の心臓が鼓動を早めた


聖の声……

どんな声してたっけな


これからもう

一生聞くことの出来ない、愛しい声

記憶の中にしかないその声を

必死に思い出そうとした

思い出すのは子どもの頃

聖が泣いてる時のことだけだ


「……そう、だよね」


えっ……?なに急に

さっきまでの勢いなくなってる

ショックうけてるの?
キツい言い方したのかな、私


「とにかく、私が聖さんではないことわかったでしょう?だからもう架けてこないでくださいね!失礼します!」


再び、藍は勢いよく電話を切る
ふぅーと大きくため息をついた

なんだろう、

少し胸に残る罪悪感みたいな痛み