生きている感覚がある。


自分が、今ここに在るという感覚が、


そこにある。




音が聞こえてきた。


小鳥の囀ずり。飛行機の飛ぶ音。


誰かの声。雨がコンクリートを打つ音。




私の目に”世界”が映る。


家、自分の部屋、リビング。


近所の公園、電車の中。


青い空、大きな海、連なる山脈。



身体に、ほのかな感覚が伝わる。


太陽の光の暖かさ。


空から降る雨の冷たさ。


小さな針が刺さる痛み。




かいだことのある匂いがする。


おいしいご飯の匂い。


学校の花壇でかいだ花の匂い。


好きな人とすれ違った時の匂い。




胸の痛みを感じた。


恋に破れた時のあの悲しみ。


大切な人を失った哀しみ。


一人ぼっちの疎外感。


輪の外の孤独感。




今、涙が頬を伝った。


胸の痛み、歓喜の感情から生まれた


一粒の清い透明な涙。




そして、目の前にあなたがいる。


初めて会った時の


どこか懐かしい不思議な感覚。


凍った心を溶かすような優しい微笑み。


重ねた手の温もり。


交わした言葉の数々。


同じ朝を迎えられる喜び。




あなたの腕の中で、目をそっと閉じる時。


生きている感覚がそこにある。




自分が、今ここに在るという感覚が、


そこにある。