いつか陸が自信をつけ、彩香の両親に挨拶に行ける日まで波風を立てぬよう、表向きは俺と彩香は婚約者として振る舞ってきた。

 それがふたりの幸せのためであり、いつかきっと陸と彩香の想いが報われる日がくると信じていたからだ。

 しかし、それが大きな間違いだったと、俺たちと出会って三ヵ月の彼女に教えられたんだ。



 週明けの月曜日。出勤前に向かった先は半年ぶりの実家。都内の閑静な住宅街に建つ大きな純和風の家だ。
 インターホンを鳴らせば、すぐに住み込みの家政婦が門扉を開けてくれた。

「旦那様がお待ちです」

 そう言って案内されたのは、父さんの書斎。「父さん、入るよ」と断りを入れて部屋に足を踏み込めば、厳しい表情で俺を待ち構えていた。

「悪いな、こんな早朝に呼びつけて。……だが、心当たりはあるだろ?」

「あぁ、だからこうして来た」

 静かに戸を閉めて父さんの目の前に腰を下ろした。すぐに家政婦が俺と父さんにお茶を出すと、部屋から出ていく。

 すると父さんは低い声で言った。