「ここは会社じゃないんだ。その呼び方はやめてくれ」

「えっ!? でも――」

 それじゃなんて呼べばいいの? 新川さんとか?

 小首を傾げると、すかさず金子さんが言った。

「そうそう、涼ちゃんも私たちと同じように気軽に『ジョージ』って呼んであげて」

「そのほうがいい。ここでは仕事のことは忘れたいしな」

 い、いいのかな。そんな私ごときが『ジョージさん』と呼んでも。

 様子を窺うと、大家さんも話に入ってきた。

「そうだよな、会社では猫被っているし、家では気負わず過ごしたいよな。ってことで涼ちゃん、『ジョージ』って呼んであげて。『新川さん』じゃ堅苦さが抜けないし」

 金子さんにも「呼んであげて」と催促され、これは呼ばないといけない雰囲気だ。
 名前を呼ぶだけなのに、『ジョージさん』なんて砕けた呼び方だからか、変に緊張する。

 だけど意を決し、思い切って口にした。

「えっと……ジョージ……さん」

 しどろもどろになりながらも呼ぶと、大家さんと金子さんは「可愛いー!」「初々しい!!」なんて茶化してくる。