たしかにさっき、井手君に手を引かれて会社を出たが、決して繋いでいたわけではない。

 でも傍から見たら、そう見られても仕方がないのかもしれないけど、だからといって『手を繋いでいたイコール交際中』は、あまりに安易な考え方じゃないですか?

 頭が痛くなっていると、聞こえてきたある先輩の一言。

「ふたりの結婚も間近だったりして」

 さすがにこれには反論しないと、あっという間に噂が広まりそうだ。井手君も自分のことだというのに、なにも言わないし。

「あのっ……!」

「なんの騒ぎだ?」

 聞こえてきたのは、ジョージさんの低い声。

 振り返れば、冷ややかな目で私たちを見るジョージさんの姿があった。

 いつもと様子の違うジョージさんに戸惑う。なんか怒っている……? だけどみんなの目にはそう見えていないのか、興奮状態で次々と話しはじめた。

「聞いてください、新川部長! なんと新川部長たちに続き、若手のホープふたりも交際中なんですよー。お似合いですよね」

「営業部はおめでた続きですね!」

「この波が仕事にもくるといいんですけど」

 先輩がそう言うと、笑いに包まれる。

 や、やめてほしい……! ジョージさんに誤解されたくない。