「待って、ちがうっ……違うの、あたしは何もしてない!」
「今さら言い訳? ああ、もしかして冬雪が俺に泣きついたと思ってる? 随分幼稚な思考回路だね」
泣きそうに歪む彼女の瞳の奥は、私を憎んでいた。……逆効果。流夏は手に入れたいならそういうのはタブー。
「…消えて」
鋭利な冷たさが空気を切る。
タイミングを計らうつもりで流夏の服を引っ張ると、気づいたように彼は私を見てすこし眉を下げた。
でもそれは一瞬。
「もう二度と俺と冬雪に近づかないで。今すぐ消えろ」
語気を強めた流夏に、彼女は色青く唇を噛み締めて逃げるように踵を返した。
その反動で揺れたカーテンを見つめていると、怪我をしていないほうの腕を掴まれて。
ぎゅっと、強く抱きしめられる。
「るか、」
「ごめんね冬雪」
耳元で囁かれる謝罪は、悲しそうだった。
「俺、いつも冬雪を傷つけてばかりだ」
それは……、私が事ある毎に友だちを失って、怪我を負うから、なんだよね。流夏。それなら言わなくていいよ。
平気だよ、だって傷ついてないから。
ねえ、流夏。
「私は大丈夫だよ」
流夏が謝ることなんてないの。
…私だよ。流夏を傷つけているのは。
私。



