「ほんと、いい加減にしてほしいよね」
わらってる、かな。
表情は見えないけど声色はたのしそうに弾んで、簡単に毒を含ませてる。
「都合が良いときだけ利用して、分が悪いと裏切って、」
──ねえ、知らないでしょ。
私たちの重さなんて、ひとつも知らないでしょ。
「自分がいちばん可愛いから……、御託を並べて傍にいて」
知らないから惹かれているくせに。
「要らなくなったら、 “ 落ちた ” ことにするんだね」
「る、流夏く、」
芝居がかった仕草で目の縁に涙を溜めて、ゆっくり顔をあげると予想通りの表情と目が合う。
絶望した顔。告げ口をしたのかと疑う色、燃える嫉妬と怒りの悲哀。…なんて可哀想なんだろう。
彼女は流夏のことがすきだった。
ずっとずっと、1年生のとき、体育の合同授業で助けてくれた日から、ずっとすきだったんだって。
それはそれは恋する乙女の表情で彼への想いを語って、殊勝ぶって、恋人がいるならしかたないかなって切なく笑ってた。
だけど実際はどう?
私と仲良くなって、流夏に取り入ろうと必死な魂胆を煮やしていただけの歪な恋情。
……バカなの?
そうするだけ無駄なのに。
「冬雪に手を出すなんていい度胸してる」



