その日の9時半。瑞希はくぅちゃんが喋れるようになるのを心待ちにしていた。

「くぅちゃん・・・私、浩二先輩が好き」

「それはよく分かったよ。瑞希ちゃんの胸の近くにいたからね。」

「でも・・・親衛隊の人たち、ちょっと心配」

「だね。明日も僕、ついて行くよ・・・いいでしょ、妖精さん」

ぬいぐるみの妖精が現れた。

「あなたを小さくすることは出来るけれど・・・あなたに何が出来る?」

「分からない・・・分からないけど、瑞希ちゃんのそばにいたいんだ」

「わかったわ・・・」

妖精さんが呪文を唱え、くぅちゃんはまた小さくなった。くぅちゃん・・・ありがとう。とても、心強いよ。

翌日、いつものように登校すると、上履きがびちょびちょに濡れていた。

(くぅちゃん・・・これは)

(やられたね。でも、証拠がない)

仕方なく、靴下のままで教室に向かった。1-Aの教室に着くと、私の机のまわりに人だかりが出来ていた。

「どうしたの、みんな?」

「高中さん、ひどいよ、これ。こんなことされる心当たりある?」

見ると、机の右上から左下にむけて、彫刻刀か何かで深く傷つけられていて、油性マジックの赤で「副会長に手を出すな」と大きく書かれていた。

「瑞希・・・きっと、親衛隊の中の誰かだよ」

茜が青ざめた顔をして言う。そして、私の足元を見て

「瑞希、上履きは?」

「水でびちゃびちゃ」

「・・・」

「高中さん、とりあえず、代わりの机、もらってきたよ」

と学級委員の中野くん。

「ありがとう」

「これで済むといいけどね・・・」

心配そうな中野くん。

「大丈夫、大丈夫よ。きっとあとから、親衛隊の人たちが黙ってても来るだろうから、決着つける」

「決着って・・・高中さん・・・」

「大丈夫よ」

内心、ドキドキだった。親衛隊は、なんでもやる。

(大丈夫?瑞樹ちゃん)

くぅちゃんが胸ポケットの中から、心配そうに心の声をかける。

(私・・・浩二先輩に告白するって言う。で、ダメだったら、いさぎよく立ち去る、って言う)

(瑞希ちゃんは・・・いつからそんなに強くなったの?)

(くぅちゃんがいてくれるから、だよ。くぅちゃんが私にパワーをくれる。くぅちゃんが応援してくれるからだよ)

(瑞希ちゃん・・・ボク、瑞希ちゃんのために何が出来るかな?)

(くぅちゃんは、そこにいてくれるだけでいい。私の守り神なの)

(瑞希ちゃん・・・)

くぅちゃんは、必死に何かできないか考えていた。