6時限目終了のチャイムが鳴り、放課後。

(くぅちゃん、浩二先輩に会わせてあげるね)

くぅちゃんに心で語りかけると、図書室に向かった。

図書室の扉を開けると、浩二先輩が本を読んでいた。

「あ、瑞希ちゃん。今日も会えたね!」

笑顔で語りかける浩二先輩。親衛隊のことは何も気づいていないようだ。

「浩二先輩、こんにちは。『下町ロケット』面白いですか?」

「あぁ。借りて帰ったものの、なかなか読む時間が取れなくて、結局ここで読んでるよ」

苦笑する浩二先輩。そういや、私も・・・。

「私もです。宿題やら、何やら、やってるとなかなか・・・でも、少し読みました。なんだか、不思議な感じのストーリーですね」

「だろ?その本は、何度でも読み返したいよ」

「あのね、先輩。変な娘だと思わないでくださいね。私の1番の友達、くぅちゃんです」

ポケットから、くぅちゃんを取り出して、浩二先輩に渡す。

「小さいころに、買ってもらって、大切にしてるんです」

「へぇ・・・。『こんにちは、くぅちゃん』・・・はい、君の大切な友達、返すよ」

「変な娘だって、思わなかった?」

「いいや、全然。むしろ、優しい子なんだなぁ、って思ったよ」

かぁ~っ。顔が真っ赤になるのが分かる。くぅちゃんをポケットに入れて。

「先輩。私、クラスに友達がひとりしかいないんです。たくさん、友達を作るにはどうすればいいでしょうか?

浩二先輩は愛おしそうに、私を抱きしめてくれた。ここ、図書室だよ?図書委員さんと司書さんは見ないふりをしてくれている。

「『友達100人』より、たったひとりの大切な友達だよ。でもね、笑顔でみんなに話しかけてごらん。仲間は増えるよ」

「笑顔・・・」

「そう、笑う門には福来る、ってね」

そうして、しばらく2人で読書して。

「そろそろ帰ろうか」

「ですね」

「今日も、送っていくよ」

「昨日、大変じゃありませんでした?」

「30分くらい、いい運動だよ」

そうして、また、2人で学校を出た。今日の浩二先輩は無口だった。自然と、私たちは手を繋いで歩いていた。

「じゃあ、ここで。明日は、生徒会だから、図書室すぐには行けないけど、1時間くらいで終わるから、送るよ」

「いいんですか?」

「ああ。だって、君は僕の・・・」

「えっ?」

「いや・・・とりあえず、行くから、それまで待ってて」

「はい。送って下さってありがとうございます」

「うん。じゃあ」

(イイ感じじゃないか)

くぅちゃんが、心に語りかける。

(私、やっぱり、浩二先輩が好き)

(よく分かったよ・・・ちょっぴり、淋しいけどね)

(くぅちゃん・・・)

その日、6時ピッタリに、くぅちゃんはいつものサイズのくぅちゃんに戻った。