アパート脇に路上駐車をさせたのが申し訳なかったくらいのスポーティな車で駅のロータリーに滑り込み、『またね、トーコ』と去り際はさっぱりしていた梨花。

「ほんとにもー、糸子さんは油断も隙もないんだからー」

電車の中で筒井君は何度も大袈裟な溜息を吐いていた。どの辺が油断なのか隙なのか、ほぼ意味不明。





駅から直結したショッピングビル内のシネコンでスリリングなスパイアクション映画を観てから、レストランフロアのハワイアンカフェで遅めのランチ。

一人だったら100%選ばないジャンルだけど、ストーリーに引き込まれてしまえば目が離せなくなって最後まで真剣に見入ってしまった。

「吹き替えにしといてよかったー。字幕だったら糸子さんの百面相を眺めてられなかったしー」

ロコモコのセットを前にふにゃりと笑う筒井君。百面相と聞いて口に入れたミールパンケーキが喉で詰まりかけた。

夢中になると顔が勝手に反応する癖は昔からで。貸し出しカウンターの内側で遠慮なく読書に打ち込む私を観察されては、先輩にもよくからかわれた。

『イトコを見てる方が飽きねぇよ』

恥ずかしかったけど。他人を寄せ付けないあなたが私の前では笑ってくれるのが嬉しかった。特別でいられてる気がしてくすぐったかった。

今でもそうだったなら。

人の悪そうな笑みがよぎって心臓がキュッとなった。イタイ。苦しい。・・・・・・切ない。