黙って俺を好きになれ

それから社内の噂話や仕事の愚痴に花が咲き、21時半を回ってお開きになった。

「糸子さん、オレすごい観たい映画があるんで明日付き合ってくださいよー」

決まりごとになって駅からの道をアパートまで送ってもらいながら、横で筒井君がふにゃりと笑う。

先週は買いたい本があるって誘われて断れなかった。・・・ビル丸ごと本屋さんなんて言われたら断る選択肢がなかったし。

映画館もしばらく足が遠のいてたなぁとは思う。思うけど、こんな風に毎回一緒に出かけたら変に期待させてしまわないだろうか。恋人になりたいかどうか、自分でもまだよく分からないのに。

答えに惑ってすぐに返事ができなかった。筒井君がふと立ち止まる。二歩くらい進んでしまった私は斜めに後ろを振り返った。

「あのね糸子さん。返事のことは考えなくていいから、嫌じゃなかったらオレに付き合ってよ。糸子さんと色んなトコ行って美味しいもの食べたり、今はとにかく一緒に楽しみたいだけだから。・・・そういうのダメ?」

黒いコートを着て首にマフラーを巻いた彼に犬耳も尻尾も見えない。真っ直ぐな目をした男の子。・・・・・・男の人。