黙って俺を好きになれ

息が。続かない。もう・・・! 

今度こそ必死にもがいて、ようやく拘束が解け呼吸が自由になった。口の端を男らしい指で拭われると、一気に力が抜けてしまってどうにもならない。ぐったり先輩の胸元にもたれかかってしまう。

「お前があんまり可愛くしがみつくから加減できなかったろうが」

クスクスと人の悪そうな笑いが頭の上で聞こえた。

「次はこんなものじゃ済まないと思えよ?・・・安心しろ、俺が一から教えてやる」

これ以上のことを教えられても無理です先輩・・・。そんなキャパはありません・・・・・。

思いながらも優しく髪を撫でられる心地よさに溶かされて。アパートに着くまでずっと、あなたは黙ってそうしてくれていた。




車を降りるときには恥ずかしさのあまり、まともに顔も上げられなかった私。

「イトコ」

呼ばれておずおず見上げれば当たり前みたいに口が繋がる。

「・・・また連絡する。他の男によそ見なんかするなよ」

目を細め不敵に口角を上げた先輩は、額にもキスを落とし満足げに私を離した。

夜に吸い込まれて車が見えなくなって行くのを見送り。心臓が締め付けられるような苦しさを堪えて外階段を昇る。2階の一番奥、205号室が私の部屋。

昇りきって通路に一歩踏み出した瞬間、玄関の前に誰かが座り込んでいる姿が目に飛び込んだ。乱視が強いせいでコンタクトの矯正視力はそれほどでもない。心当たりはこれっぽちもなかったし、しかもそれが勢いよく立ち上がったから、思わず踵を返して階段を駆け下りようと。

「ッ・・・、糸子さんっ!」

響き渡ったのは他でもない筒井君の声だった。