黙って俺を好きになれ

「糸子さんが大声出すの初めて聞いた」

「・・・必死だったから」

「オレの知らない糸子さん見てるみたいで、なんかね。届かない気がしたなー」

強がりでもなく、降参して見えない両手を挙げているような。潔さと苦さが()い交ぜの笑い顔。

「怖い人だって分かっても気持ちは変わんないんだね」

「・・・うん」

「どうなっても、引き留めないよ」

「うん」

「なら糸子さんが行きたいトコに行きなよ。・・・ちゃんと見送るんでオレ」

コクリと頷く。声に出したら、目からも堪えてるものが零れてしまいそうで。

「バイバイ糸子さん」

「・・・さよなら」

声が詰まった。顔を歪ませないのが精一杯だった。力強かった『バイバイ』にぐっと背中を押された気がした。途中で挫けて折れるな。・・・って。

どこもふやけてない大人びた笑みに見つめられながら、踵を返す。

「もっと早く告ってれば糸子さんはオレのだった・・・!」

切なげに追いかけてきた声には振り返らなかった。一瞬、見えない何かに絡め取られそうになった足を前に動かし、幹さんの胸に飛び込む。