黙って俺を好きになれ

途端。頭の天辺に埋まった吐息の温もり。あなたの顔は見なかった。前を向いたままで代わりにそっと掌を重ねた。私の肩を引き寄せた(つよ)い手に。

笑みを消した筒井君を真っ直ぐ見つめ返す。

「自分の知ってる幹さんがほんの一部分(すこし)だって、解ってるつもり・・・。でも目の前の幹さんが全てでいいの。一緒にいる時は怖いことも難しいことも忘れて笑っててくれたら幸せ。『晩メシはなんだ?』って嬉しそうな顔を見ていられたら幸せ。・・・今の自分に嘘を吐くほうが後悔するから、普通じゃなくても幹さんといたいの」

「そこにいるのは“六道会の小暮幹”だよ。そんなの通用しないよ、糸子さんがどう思ってても」

澱みなく突き抜ける眼差し。私が思い(ちから)を込めて放った矢は、君とのあいだに横たわった透明なゼリーの壁にのめり込む。届かずに。

「オオカミがヒツジ咥えて、猟師や敵と闘いながら生き残れないでしょ?いざとなったら、自分カワイさでヒツジを見捨てるに決まってる。糸子さんが好きだったセンパイなんかただの幻だよ」

抑揚もなく言いながら筒井君が視線をスライドさせた。

「かもしれねぇな」

冷笑と嘲りの気配。

「所詮は外道だ」