黙って俺を好きになれ

ありがとう。

ただその一言に込めて。心の中で静かに頭を垂れた。ごめんなさいは言わないと決めていた。筒井君が待ってるのは感謝でも贖罪でもないと思うから。

「・・・幹さんは高校で怖い先輩だって噂されてたの。私でも知ってたくらい」

前置きもなく口を開いた私を筒井君は黙って見つめる。

「群れるのが嫌いな一匹狼みたいな人かと思ってた。・・・ちょっとだけ意地悪で優しくて、大人びた笑い方するのに私をからかう時は子供っぽくて。放課後の図書室は先輩といられる特別な時間だったの」

幹さんにも打ち明けていなかった気持ち。

「先生も他の生徒ももしかしたら、“ヤクザの家の息子”としか見てなかったと思う。でも自分(それ)を一番嫌ってたのは先輩だった。・・・何も苦しまずに跡を継いだわけじゃないの。どこも傷付いてないわけじゃないの。“ヤクザ”って物でできてるわけじゃない、小暮幹っていう一人の人間なの、私が好きになったのは」