黙って俺を好きになれ

私がようやく一歩を踏み出すあいだに、幹さんは少しでも前を歩いて道を(なら)してくれる。方向を定め、覚束ない足取りの私の手を引き、盾になりながら導いてくれる。

だからこそ人生ごと委ねる決心もついた。深く思う。

「男の人を連れて行くのは初めてなので・・・。でも反対はしないと思います」

「されても引く気はねぇよ。親がいつまでも子供にしがみついてどうする」

人が悪そうに笑んだ気配。

「ああ・・・親の前に付ける話もあったな。ボーヤに電話をかけろイトコ」

それなりのスピードで直線を走っていたら、いきなりコースが直角に折れ曲がった。ぐらいの衝撃は感じた。茫然と横を仰げば黙って闇色の眸がすっと細まった。

一体なにを話すんだろう。胸の奥がざわつく。ぎこちなく立ち上がってダイニングテーブルに置いてあったのを手にソファに戻った。

アドレスを開き、画面をタップする指が微かに震えて。応答を待つ間に不意に耳許からスマホが抜き取られる。幹さんは手を交差させて耳に当て、空いた腕に私を閉じ込めた。この至近距離でなら会話は丸聞こえ。いやに心臓が波打つ。

『糸子さん?』

筒井君の声が響いた。