朝。椅子に座ったまま重ねた手の甲を枕代わりに、ベッドの端に突っ伏した格好で目が醒めた。コートを膝にかけ肩から毛布を被って徹夜明けの受験生のよう。

躰を起こして灯りが点けっぱなしの室内をふと見渡せば、山脇さんが壁を背もたれに窓際の椅子で転た寝をしている。他には誰もいない。遮光カーテンの合わせ目から射す細い光は、今日が晴れなのかまでは。

幹さんも静かに寝入っていた。額に手を当ててみたけど熱もなさそう。ほっと胸を撫で下ろす。

できるだけ音を立てないよう足許のバッグを探り、スマホを手に取る。画面に表示された時刻は6時37分。窮屈な姿勢だったわりに熟睡していたのは、ずっと眠れてなかったせいだろう。

昨日までは、あんなに何もかもが暗くて重くてどうしようもなかったのに。嘘みたいに晴れやかで安らかで。あとは一日も早く幹さんの傷が癒えることだけが心からの願い。

・・・どんな状況でこうなったのかを私が訊くことはないし、幹さんもきっと口にはしない。不可侵のルールが言わなくても存在していて、でもそれは“壁”じゃなく“境界”なんだと思う。どこまで足を踏み入れていいのか線引きする為の。・・・棲む水を濁さない為の。

本当は傍にいて看病してあげたい。だけど。ここは私のいられる場所じゃない。幹さんが起きたらアパートまで送ってもらおう。寝顔を見つめて切なさを胸にそっと閉じ込めた私だった。