黙って俺を好きになれ

「お前を連れてきたのは山脇か」

名残惜しさを仕舞い込んで体を離すと不意に尋ねられる。つまりそれは、幹さんの指示じゃなく彼自身の意図だったということ。

「会社を出ようとしたらいつもの車が停まって・・・。でも何も教えてくれなかったんです」

「・・・なるほどな」

「あの、山脇さんは幹さんの部下じゃないですよね・・・?」

引っかかっていた疑問をそこでぶつけてみた。ただの運転手じゃないのはとうに理解できている。

「今は補佐だ。・・・ガキの頃は俺の世話係でな。所詮は親父の忠犬(イヌ)で喰えねぇ男だが」

幹さんは横顔に冷めた笑みを覗かせたけど、本心までは見えない。

少なくても世話係と聞いて私は腑に落ちた。山脇さんが下の名前を口にしたのは、“兄”のような感傷が知らず雑ざったのかもしれない。こうして会わせようとしたのも人情だと思うのは、決して買い被りでもない気がした。