当然のように私の肩に回された強かな腕。お酒と煙草と甘すぎない香水の香り。・・・男の人の匂い。あの頃だったら考えられない距離。心臓が変になったんじゃないかってくらい、耳の奥でドクンドクンと鼓動が鳴り響く。

イエスともノーとも答えていない私を、少し離れた路上に駐車していた高級セダンの後部シートに促し、隣りに乗り込むと小暮先輩は運転手に「出せ」と一言だけ。

二度目の偶然。この辺に住んでるんだろうか。それともよく通りがかるだけ・・・? しかも送ってもらってるって。

今さらながら、ずうずうしくないだろうか。同級生でも同じ部の後輩でもなく、ただの図書委員だったわけで。頭の中が混沌と渦巻いている。

「しかし、お前とはつくづく縁があるな」

「え・・・っ?」

決して否定的には聞こえなかった言葉に隣りを向くと目が合った。

「あの頃といい不思議と悪い気がしないって話だ。・・・まあ相変わらず色気は足りてねぇが、イトコらしくていい」

「ありがとう・・・ございます」

褒められているのか微妙ではあったけど。

「男はいないのか」

「・・・そうですね」

「だろうな」

先輩はやっぱり人が悪そうに口角を上げた。