黙って俺を好きになれ

気が付けば日が暮れるまで熱に浮かされて、幹さんの腕の中だった。底を尽きかけた体力を絞り出し、夕飯作りに取りかかる。

アンドロイド並みに疲れ知らずのあなたはレンジフードの下で煙草をくゆらせ、観客に徹しながら涼しい顔。

「足りないものがあるなら言えよ?イトコが越してくるまでに揃えておいてやる」

『明日からここに住め』と聞かなかったのを、住んでいるアパートを来月末までに引き払うことでどうにか納得してもらったのは、ついさっき。四月から少しのあいだ通勤時間が倍になる。それでも。鼻歌でも出てきそうな幹さんの上機嫌な様子に苦とも思えない。
 
課長には明日にでも退職の意向を伝えるつもりだ。筒井君のためにも。そう思ったのを打ち消す。・・・違う。私は彼を傷付けるだけ傷付けて逃げる卑怯者。

「使ってるものをそのまま持って来るので大丈夫です」

豚汁の味噌加減を味見して小さく笑い返す。

どことなく不服そうなあなたは煙草の火を灰皿でもみ消すと、背中から私を捕まえて左耳を甘噛みした。

「・・・つれねぇな。女を甘やかすのが男の甲斐性だろうが」