黙って俺を好きになれ

歳は30代後半に見えたその人は短髪で、彫りが深い南の出身を想像させる面差しだった。運転中に後ろを振り返った記憶はなく、今も前を見据えたまま。

「所詮、同じ水には棲めねぇ者同士だ。真っ当な男を探してアンタは身を引け」

脅しじゃねぇよ忠告だ。・・・と冷たくも温かくもない声がかえって生々しかった。幹さんと同じ世界に生きる人の言葉だったのがことさら心臓を、流れる血を、冷やしていく。

「どうせ知らねぇだろうが、若は縁組も決まってる。・・・真に受けると痛い目見るぞ」

結婚が。決まってる。

刹那、躰のどこかで何かが凍りつき、ひび割れて砕ける音を聴いた。音は小さかったのか大きかったのか、重かったのか軽かったのか。・・・よく分からなかった。

どうしてこの人が私に言ったのかも分からなかった。

ただ。泣きそうになるのを必死に堪えていた。
怖かったのか悲しかったのか、それすら分からなかった。

運転手さんもそれきり口を開くことがなかった。
車内はエアコンも効いていて温かったのに。
ずっと躰の芯が震えて止まらなかった。

自分で自分を抱き竦めていないと。崩れ落ちて戻らなくなりそうだった・・・・・・。