「楓。俺だけなんで苗字なの?」
ふっと笑う声。
髪の擦れる音がして……
「っ、それは……。りゅっ、琉矢くんも、琳くんも智くんも、苗字、分かんないし」
胸が、壊れそう。
いたたまれなくなって、ばっと横を向いた。
「ふっ、やっとこっち向いたね。白波さん」
ニヤッと笑う昴の顔が目の前にあった。
「きっ、鬼島くん……。いっ、いじわるだよ」
「ん?何が?」
きょとんとした顔。
それも、意地悪に微笑んでいる気がする。
「白波さん、俺のこと、昴って呼んでみてよ」
「へっ、無理!ムリムリムリ!」
思いっきり首を振った。
すると、さらに昴がぐいっと顔を近づけてきて、楓は体を引いた。
「なんで?俺だけ?コイツらのことならなんてことないって風に名前で呼べるのに?」
「そっ、それは⁈」
頭がパニックになる。
ニヤニヤする顔が近づいてくる。そしてその顔は、耳元に近づいて。
胸が、もう、崩壊して、しまって……いる。
「ほら、呼んでみてよ。昴って」
もう、抗えない。
「すっ……すばる……?」
声を、絞り出した。
「……」
目をぎゅっと瞑ってしばらく待った。
が、全く反応がない。
なんとなく心配になって、そっと目を開けた。
すると、
「へ?」
昴の頬が真っ赤になっていた。
