「じゃあ、ここにはどんな動物がいるんだ?」
「えっ動物…?んー、鹿とか、うさぎとかイノシシとか?あっ、学校の帰り道に猿見たことある。道端で轢かれたイタチとかはたまに見るし…」
楓は轢かれてグロテスクな見た目になってしまっていたイタチを思い出して、身震いをした。
「えっなにそれ、すごいじゃん!俺見たことないよ、そんなの」
昴は少し興奮気味になってそう言った。
その姿は小さな子供みたいで、楓は驚きつつ、少し笑いそうになってしまった。
「私からしたら別にすごくないけど、まあそう思うかもね」
「他にはなんかいたりするの?」
目を輝かせて昴が問いてきた。
「えっ?んーそうだなあ…」
楓は少し考えた後、ある光景を思い浮かべた。
「蛍…かな」
「蛍?」
昴は不思議そうに目を瞬かせた。
「うん」
楓の脳裏にあの幻想的な景色が浮かぶ。
あれはいつかの夏の夜…
ヴァイオリンを弾くのに夢中で日が暮れるのも忘れていた、あの日。
気がついた時にはもう、空は真っ暗で沢山の星が降ってきそうなくらいに瞬いていた。
ふっと顔を上げた時、一瞬星が落ちてきたのではないかと思ってしまった。
月夜に照らされてぼんやりと映る飴色のヴァイオリンの上に、黄色くて、淡くて、でもとても綺麗な光の粒が飛んで来ていたのだ。
それは本当に綺麗で、美しくて、鮮麗で、誰も彼もが憧れる、星みたいだった。
