「じゃ、じゃあ、弾くね」
つっかえながら楓はヴァイオリンを構えた。
視線が突き刺さる。
楓が目を向けなくてもわかる。昴は今、楓を見つめている。
ああ、この感覚。
覚えてる。
沢山の視線が突き刺さる、緊張感。
期待の目、見守るような目、挑戦的な目。
心が奮い立つ。
けど、怖い。
たまらない、この感覚が。
嫌だ。
「白波さん?」
静かだけど、低く、この穏やかな声。
昴は楓の表情を伺った。
「…っ、ごめんなさい!私、どうしても…」
無理、楓はそう言いかけた。
「白波さん、落ち着いて」
昴の声にはっとした。
楓は大きく深呼吸をすると、視線を下げた。
「ごめんなさい。私、人前で演奏、できない」
ぼそりと呟いた。
できない。
無理。
人前で演奏なんて、もう、できっこない。
楓は自分の唇を強く噛んだ。
「白波さん、俺を見て」
楓の頬に、昴の指先が触れた。
楓はえ、と顔を上げた。
「大丈夫?」
