声がうわずる。
それに対して、昴はなんてことないと言うような表情で思案している。
「うーん、そうだなぁ……」
しばらく迷ったのち、昴は
「白波さんが一番好きな曲」
と言った。
「えっ?…私が、いちばん、好きな曲……
それで、いいの?」
楓が聞き返すと、昴はこくりとうなずいた。
「うん。俺、クラシックとかよく分からないし」
楓は「アメイジング・グレイス…」と呟いた。
「それでお願い」
昴はすぐにそう言った。
楓はあまりの早さに驚いて、目を見開いた。
「えっ…と、分かった」
楓は頷き、ヴァイオリンをケースから取り出した。
飴色の楽器が程よくひんやりとしている。ほのかに木の香りがして、心がたかぶる。
楓はそれに思わず表情を緩ませた。
いつだってそばにいてくれるのは、このヴァイオリンだから。
