「それでもいいよ。どんな演奏でも構わない」
昴はなんてことない、という風に言った。
楓は少しの熟考ののち、「分かった」と呟いた。
すると、昴は顔を微かにほころばせた。
「ほんと?ありがとう」
「ううん」
顔を引きつる。
たった一人の前で演奏するというだけで、異常に緊張する。
「じゃっ、じゃあ、ちょっと着いてきて」
バクバク言う心臓をなだめながら、元来た道を歩いていく。
その後ろには少し緊張した面持ちの昴が付いてきていた。
相手はあの国民的大スター。
楓はアイドルの昴のことは全く分からないが、あの母の熱狂ぶりやクラスのみんなの興奮を思い出すと、昴がただ者ではないのだろう。
家族に向けて演奏するならまだしも、会って間もない芸能人に向けて演奏すると思うと、気が重くなる。
「りっ、リクエストはありますかっ?」
